宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東海クラリオン(TCL)、アジア・テクノロジー・インダストリー(ATI)の3者は8月9日、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)の枠組みのもと、2023年6月より「後のせ自動運転システムYADOCAR-i(ヤドカリ)ドライブ」に関する共創活動を開始したことを発表した。
全国に2000か所以上ある限界ニュータウンや、過疎地の限界集落などにおいて、お年寄りなどの交通弱者における生活の足として自動運転車が期待されており、各地で実証実験が行われている。特に過疎地での高齢者の日常の移動に対しては、決まったルートかつ狭い道を低速で走行する安価な自動運転車が求められている。
また国内外のリゾート地においても、観光スポットでの空港や鉄道の最寄り駅などと目的地の間のラストワンマイルの移動など、自動運転車が求められる場面は数多く存在する。しかし、自動運転技術は完成に近づきつつあるものの、自動運転車の導入費用の問題もあり、実導入は進んでいない。
これらのニーズに応えるべくTCLとATIが共同開発しているのが、既存のモビリティに最小限の機材の追加搭載で自動運転を実現するシステムのYADOCAR-iドライブだ。追加機材を最小化するため、また、国内用と国外用のシステムを共通化するため、YADOCAR-iドライブでは、走行ルート作成に準天頂衛星「みちびき」を主軸にしたQZSSの位置情報が用いられている。具体的には、みちびきの利用が可能なアジア太平洋地域への展開などが想定されており、みちびき2号機~4号機および初号機後継機のL6Eチャンネルで送信される実証実験向けのセンチメートル級測位補強信号を活用した高精度単独測位(MADOCA-PPP)が利用されている。
そして3者によると、JAXAが行うMADOCA-PPPの高度化と、TCL/ATIが行う自動運転システムの現場環境での走行実証を組み合わせることで、レベル4の自動運転の実現が期待できるという。
3者の役割について、まずTCLは、自治体および観光関連業界に対し、低価格自動運転の活用モデルとしてYADOCAR-iドライブを提案、自動運転走行のデモンストレーションを実施し、システムの有用性や利便性を可視化する。
ATIは、MADOCA-PPPに対応したマルチGNSS(衛星測位システム)受信機の開発・製造を行うコアと連携協力し、現場ごとに違う環境に適応した自動運転システムの開発を実施するとのこと。また、走行結果を受信機開発にフィードバックすることで、受信機の自動運転利用への最適化を行い、自動運転システム全体の高度化を目指すとしている。
そしてJAXAは、衛星測位利用者が世界中で時間と場所を問わずセンチメートル級の高精度測位を行えるよう、MADOCAおよびMADOCA-PPPの技術開発に継続的に取り組み続け、その社会実装を目指すとする。
衛星測位は、ユーザの利用形態・環境に性能が大きく依存することから、今回の共創では、低速のEVにおけるレベル4自動運転実現を目指すユーザの測位性能および利便性を高めるため、MADOCAのみちびきL1/L5信号対応および中国の衛星測位システム「BeiDou3」への対応を行うとする。これにより、対応する衛星数が30機以上増えるとのことだ。
上空視界が限られたアーバンエリアや山間地などにおいては、準天頂衛星システムのMADOCA-PPPサービスを地上配信情報によって補完することで、測位精度の向上を目指すとする。またMADOCAが生成する補正情報を用いた演算処理により、高精度単独測位を行うユーザ測位用ソフトウェアであるMALIBを高度化し、従来20分程度を必要としていた初期収束時間を1分以内へと短縮することを目指すとしている。
そして3者の協力により、最初の1~2年で、MADOCAおよびMADOCA-PPP高度化とYADOCAR-iドライブの実証走行を並行して実施し、開発と利用のフィードバックループを回すという。そこで運用実績を積み、以降の現場実装を加速させる計画とした。
自動運転を安価に提供することは、日本のスマートシティ化につながる。これまで、地域の交通に関する課題は見えていても、高額な自動運転車の導入に踏み切るのは困難だったという。JAXAなど3者は、今回の共創では衛星測位技術を活用することで、市場最安値の自動運転技術の提供を目指すとしている。
また、ラストワンマイルの移動手段がなかった観光地、介護や通院など、日常の足に困っている市街地、高齢者の事故リスクに悩む限界集落、こうした地域への導入を実現できれば、利便性・収益性の観点でさまざまなサービスとの組み合わせが生まれ、運用費を限りなくゼロにできると考えているとした。