日本IBMは8月9日、オンラインで調査レポート「CEOスタディ2023『AI時代の到来で変わるCEOの意思決定』」に関する記者説明会を開催した。
AI時代を到来で、CEOが考える最優先事項とは
同レポートでは、今年2月~4月にかけて30カ国以上、24業種に及ぶ約3,000人(うち日本は165人)のCEOを対象に実施した意思決定に関する調査に加え、4月~5月に期間で生成AIの対応に関する調査として、米国の200人のCEOを対象とした調査、および米国、英国、オーストラリア、シンガポール、ドイツ、インドの369人の経営層を対象に実施した調査結果をまとめている。
冒頭、日本IBM 常務執行役員 テクノロジー事業本部長 兼 AIビジネス責任者の村田将輝氏は「調査自体は2003年から行っており、直近2年間を振り返ると2021年はコロナ禍において、どのようにビジネスモデルを変革させるかがテーマとなっていた。また、2022年はサステナビリティに対する変革の重要性が着目された。そして、2023年はAI時代の到来で変わるCEOの意思決定がテーマとなっており、本質的な価値を見極めて変革を実行してきたCEOにとっては、AIは競争優位を増幅する可能性に満ちている」と述べた。
続いて、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 エンタープライズ・ストラテジー部門責任者 パートナーの瀬良征志氏がレポートの内容を紹介した。
調査結果によると、今後3年間で企業に最も大きな影響を与えるとみられる外部要因として「テクノロジー」(48%)と「法規制」(44%)が引き続き企業に多大な影響を与える一方で、「人材・スキル」(36%)の影響力が上昇に転じている。
また、今後3年間における企業の最優先事項のトップに「生産性」(世界48%、日本54%)を挙げており、2022年の6位から上昇し、2番目に今年の調査で選択肢として追加された「テクノロジーのモダナイゼーション」(世界45%、日本39%)が続いているが、これが最大の課題でもあることも示しているという。同様に今年に加えられた「サイバーセキュリティとデータプライバシー」は世界で4番目(43%)だったが、日本では7番目(35%)となった。
CIOやCTOなどが戦略的意思決定に関与
CEOの戦略的な意思決定に伴う情報としては「オペレーショナルデータ」(世界76%)がトップ、2番目に「財務データ」(75%)を最重要視しているが、「社内からの情報」(同63%)や「個人的な経験」(54%)、「ソートリーダーシップ、調査報告書、ホワイトペーパー」(50%)など、そのほかのものも戦略的な意思決定の参考にしているという。
瀬良氏は「上位の2つは定型的なデータだが、下位のものは自然言語やテキストデータではない情報がメインのため、AIの時代においてはこうした情報もAIを駆使すれば、上位2つのデータと同様にシステム処理を行い、インサイトを引き出すことが可能になると想定される」と話す。
今後3年間で最も重要な意思決定を行うC-Suiteメンバー(経営層)は誰かを尋ねたところ、CEOは「最高執行責任者(COO)」(世界62%、日本55%)と「最高財務責任者(CFO)」(世界52%、日本58%)を挙げている。
加えて、世界のCEOの38%(昨年の19%から増加)、日本のCEOの34%が「最高情報責任者(CIO)」、次いで「最高技術責任者(CTO)」あるいは「最高デジタル責任者(Chief Digital Officer)」(世界30%、日本33%)が重要な意思決定をに携わっているという。
「最高データ責任者(CDO)」は昨年の9%から16%、「最高セキュリティ責任者(CISO)」は4%から15%に増加し、テクノロジーやデータのリーダーが戦略的意思決定に関与すべきだと考えるようになっている。
企業の結果を引き出すために役立つと期待されるテクノロジーに関しては「クラウドコンピューティング」(世界60%)、「IoT、モバイル、コネクテッドデバイス」(同53%)、これらで取得したデータを分析する「AI(生成AI、ディープラーニング、機械学習)」(同51%)、「高度なアナリティクス」(同40%)は昨年に引き続き、上位4つとなっている。
しかし、上位4つが占める割合に変化が生じており、「AI(NLP、チャットボットなど)」(昨年の10%から34%に増加)、新しい項目の「データアーキテクチャ」(世界21%)など、そのほかの選択肢が増加している。
生成AIをどのように活用していくのか
一方、3,000人のうち、高い業績を誇るトップCEOの100%は「自社のデジタルインフラで効率的に価値を向上・実現するための新たな投資が可能になる」あるいは「最も重要意思決定はデータだけでは行えない」ということに強く同意している。
また、CEOが戦略的意思決定を行う際に重要と考える行動について、トップCEOは予測・モデリング、予測分析、ベンチマーキング、データマイニング、シナリオプランニングをはじめ、すべての行動において幅広くプランニングアプローチを用いている。
そのほか、自社のダッシュボードがインサイトを提供すると評価した割合がトップCEOはそのほかのCEOよりも13倍高くなっている。自社の指標が目標達成に寄与しているとの回答割合も3倍多く、自社の指標が組織のパフォーマンスと健全性の理解に役立っているとの答えは2倍高くなっていることに加え、トップCEOの90%以上が指標を活用して組織の文化を定義し、強化しているとのことだ。
最後に、米国における生成AIの導入に関する調査結果が解説された。CEOの75%が先進的な生成AIの有無が競争優位を左右すると考え、50%のCEOは商品・サービスに生成AIを組み込み、43%のCEOは生成AIから得た情報を戦略的な意思決定に利用している。
瀬良氏は「CEOの約7割は生成AIに価値を感じている一方で、CEO以外の経営層の約3割は準備不足の認識にある」と説く。
生成AIがもたらす潜在的な利益としては「売上あるいは収益の改善」(57%)、「コンテンツの品質向上」(53%)、「組織能力の拡大」(51%)など、多くの分野で期待が集まっている。意思決定についても「適応性」(80%)、「実行可能性」(78%)、「スピード」(76%)、「インサイト」(74%)と、さまざまな面で改善されることを想定している。
その半面、生成AIの導入に対する懸念事項として「データリネージュ(履歴)/プロビナンス(来歴)」(61%)、「データセキュリティ」(57%)、「独自データの不足」(53%)などを挙げている。
瀬良氏は「自社内で、すでに活用または今後計画している領域も多岐にわたり、人材面でも追加採用、あるいは削減・再配置などに取り組んでいる。しかし、生成AIが普及することで人材面の影響を評価できていない状況もあり、多くの企業が試行錯誤の状態となっている」と述べていた。
組織や人材、プロセスも含めた検討が必要
また、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 エンタープライズ・ストラテジー パートナーの田村昌也氏は、生成AIの調査結果をふまえ、次のような見解を示す。
「CEOは広範な分野で生成AIの活用に着手している一方で、期待と現実に距離感がある。投資家・債権者など利害関係者の期待は大きいが、従業員・顧客は慎重を期する圧力も受けている。さらに、CEOは広範な利益を期待しているものの、ほかの役員は責任を持って活用する準備ができていない。そのほか、多くの分野、事業計画で開発中または導入済みではあるが、データの証跡やセキュリティ、バイアス、正確性に懸念を持っている」(田村氏)
つまり、生成AIを個人レベルの生産性を超えて企業競争力につなげるためには直面する課題が多く、信頼性の担保(AIのアウトプット)、データの活用(AIへのインプット)、業務プロセス・IT連携(AIとの協働)が必要とのことだ。経営層は、生成AIに対して大きな財務リターンを期待しているものの、それらは従来型AIの基礎のうえに成り立つものだという。
田村氏は「生成AIを企業活動に組み込み、競争力に資するための懸案は多方面にわたることから、本格活用にはテクノロジーだけでなく、組織や人材、プロセスも含めた検討が必要。IBMでは、ビジネスのためのAI活用を加速するwatsonxで支援する」と強調していた。