法政大学(法大)と国立天文台(NAOJ)の両者は8月4日、地球から約460光年の距離にある三重原始星系「IRAS 04239+2436」について、アルマ望遠鏡を用いた観測と解析の結果、衝撃波の存在を示す一酸化硫黄(SO)分子が発する電波輝線を検出し、その分布が細長くたなびく400天文単位にも渡る大きな3つの渦状腕を形づくり、これらの渦状腕に沿ってガスが3つの原始星に流れ込んでいることを発見したと共同で発表した。
また、観測から得られたガスの速度情報を、NAOJの天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)の運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」および「アテルイII」を用いた数値シミュレーションと比較することにより、3つの渦状腕は3つの原始星にガスを供給する「ストリーマー」の役割も担っていることがわかったことも併せて発表された。
同成果は、ソウル国立大学のジョンユァン・リー教授を中心とし、法大 人間環境学部の松本倫明教授らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
恒星の多くは、複数の星が互いを回り合う多重星として誕生することが知られている。そのため、多重星の形成メカニズムを理解することは、星がどのようにして誕生するのかを知る上で大変重要であるが、その形成過程は多くの謎に包まれ、未だ解明には至っていないという。
多重星の形成過程を理解するためには、複数の原始星が生まれる瞬間を直接観測するのが効果的だ。さらに最近の原始星観測では、原始星がガスを吸い込んで成長している様子を示すストリーマーがしばしば報告されているが、その起源もまた未解明である。そこで研究チームは、複雑な構造になっていると予想される多重星の原始星の周囲のガスの流れについて、アルマ望遠鏡を用いた詳細な観測を実施。多重星のIRAS 04239+2436周辺のSO分子が放出する電波を、高解像度かつ高精度で観測したとのことだ。
SO分子は衝撃波がある場所でよく検出されるため、研究チームは今回、原始星の周囲でガスが激しく動き回るところを捉えられると期待していたという。そして、実際にIRAS 04239+2436の周囲にSO分子を検出し、その長さが400天文単位(太陽~地球間の400倍)にも渡る大きな3つの渦状腕(渦のような形をした細長い構造)を形づくっていることが確認された。さらに、ドップラー効果による電波の周波数の変化から、SO分子を含んだガスが動く速度を導き出すことにも成功したとする。
ガスの動きを分析した結果、観測された渦状腕の形をしたSOガスは三重原始星に向かって流れ込むストリーマーであることがわかった。それらの渦状腕が、原始星に物質を供給している流れだったのである。そこでガスの動きをさらに詳細に調べるため、数値シミュレーションによってガス雲から多重星ができる様子を再現し、観測から取得されたガスの速度と、シミュレーション結果の直接比較が行われることとなった。