岡山大学と高輝度光科学研究センター(JASRI)の両者は8月4日、独自に開発した高精度の高温高圧実験技術を用いて大型放射光施設「SPring-8」にて実験を行い、マントル主要鉱物でケイ酸塩鉱物のガーネットの一種である「パイロープガーネット(Mg3Al2(SiO4)3)」が、同じケイ酸塩鉱物の「ブリッジマナイト((Mg,Fe)SiO3)」と「アルミナ(Al2O3)」(酸化アルミニウム)へと高圧相転移(ポストガーネット転移)する圧力の温度依存性を精密に測定したことを共同で発表した。
同成果は、岡山大 惑星物質研究所の石井貴之准教授、独・バイロイト大学 バイエルン地球科学研究所の桂智男教授を中心に、JASRI、中国・北京高圧科学研究センター、北京大学、東北大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球化学に関する全般を扱う学術誌「Nature Geoscience」に掲載された。
地球は約6400kmの半径を持つ岩石型の惑星だ。その構造は、表面から深さ平均約30kmまでの地殻、その下から深さ約2900kmまでのマントル、その下から中心までの核と、大別して3つの領域から構成されている(核が内核と外核に分かれているなど、さらに細かい分類もある)。
このうちで、地球内部の8割以上を占めるのがマントルだ。マントルでは、沈み込むプレートや深部から上昇するプリュームなどが、地質学的な長い時間をかけて移動している。この物質移動現象は「マントル対流」と呼ばれ、これにより地球の表層と内部の間で物質や熱のやり取りが行われている。このマントル対流を理解することは、地震や火山活動、そして地球内部の化学的進化に関する謎を解く手がかりにつながるものと考えられている。
地球内部を光学的に観察することは不可能だが、地球のX線CTスキャンともいうべき手法である「地震波トモグラフィー」を使うことで、地球内部の様子を知ることが可能だ。地震波トモグラフィーでは、地球内部を通る多数の地震波の到達時間を調べることで、地球内部の地震波速度分布図を作成する。地震波の伝わる速度は、プレートのように冷たく硬い物質ほど速く、プリュームのような熱く柔らかい物質ほど遅く伝わることから、地球内部のプレートやプリュームの現在の挙動をスナップショットとして捉えることができるのである。
これまでの研究では、この地震波トモグラフィーにより、深さ660km~1000kmで沈み込むプレートが滞留する様子や、マントル最深部から上昇するプリュームが深さ1000kmより浅い領域において突然“見えなくなる”現象などが観測されている。だがこれらマントル中部の特異な現象については、まだ原因を特定できていないという。
そこで研究チームは今回、独自に開発した高精度の高温高圧実験技術を駆使して、マントルの主要鉱物であるパイロープガーネットがブリッジマナイトとアルミナへ高圧相転移するポストガーネット転移圧力の温度依存性を精密に測定したとする。
ちなみに高圧相転移とは、規則正しく配列して結晶を構成する原子が、圧力・温度が変化することで、まったく違った配列に変化する現象を指す。地球を構成する主要な鉱物は、地球深部の深さに相当する圧力でさまざまな相転移を起こし、より高密度の鉱物(高圧鉱物)になるのである。
研究チームによる精密測定の結果、ポストガーネット転移圧力の温度依存性は、温度とともに負から正へと変化するという、ほかのマントル鉱物にはない特異な性質を持つことが判明したとのことだ。なお、これまで鉱物の高圧相転移圧力の温度依存性は、正か負のどちらかであると考えられてきた。正の場合、対流は促進(加速)され、逆に負の場合は抑制(減速)される。
ポストガーネット転移は、低温のプレートの進行を抑制しながら高温のプリュームの上昇を促進するという、従来の常識を覆す2つの性質を持っていたのである。そしてこのポストガーネット転移により、上述した沈み込んだプレートの滞留やプリュームの不可視化(加速による細線化と解釈)が整合的に説明できる可能性があることが明らかになったとする。
マントル対流は、人類社会に大きな影響を与える地震や火山活動を引き起こす原因の1つだが、同時に生命の起源にも大きく関わっていると考えられている。今回、数あるマントル鉱物の中でもガーネットに着目し、その相転移が、マントルの深い領域で起こる特殊な対流現象の原因である可能性が示された。研究チームは今回の技術を用いて、ほかのマントル鉱物の相転移についても詳細に明らかにしていくことで、マントル対流の全貌を解明することが期待されるとしている。