東京薬科大学(東薬大)は8月4日、尋常性ざ瘡(ニキビ)の発症と増悪に関与する菌「Cutibacteirum acnes」(アクネ菌)の増殖を阻害する新規抗菌ペプチド「Avidumicin」を発見したことを発表した。

同成果は、東薬大 薬学部 臨床微生物学教室の中南秀将教授、同・小泉珠理大学院生(研究当時)、同・中瀬恵亮氏講師(研究当時)、同・野口雅久名誉教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本感染症医薬品協会が観光する欧文学術誌「The Journal of Antibiotics」に掲載された。

思春期の若者の多くが経験するニキビの発症・増悪には、皮膚常在菌であるアクネ菌の過剰増殖が関与することから、その治療には同菌を標的とした抗菌薬が使用されている。しかし、ニキビ治療での抗菌薬の使用は長期間を要するため、患者が若い世代だけに、不適切に使用されてしまうことも少なくない。その結果、薬剤耐性を獲得したアクネ菌が出現し、抗菌薬の治療効果が低下した患者が増加しているという。さらに、抗菌薬はアクネ菌だけでなく、皮膚の善玉菌の増殖も阻害するため、正常な皮膚細菌叢の破綻を招く恐れがあるとする。

このような背景を受け、薬剤耐性菌の出現リスクが少なく、ほかの皮膚常在菌への影響が少ないニキビ治療薬の開発を目指して研究を行っているのが研究チームだ。その研究の中で今回は、細菌が産生する抗菌ペプチドに着目したという。抗菌ペプチドは、従来の抗菌薬とは異なる機序で作用するため、薬剤耐性菌の出現リスクが低いことが大きなメリットだ。また一部の細菌にのみ作用するため、常在菌に与える影響が少ないといったメリットもある。今回の研究では、アクネ菌の増殖を阻害する新しい抗菌ペプチドとして、皮膚常在菌の一種「Cutibacteirum avidum」(C. avidum)が産生する物質のAvidumcinを発見したという。

  • C. avidumによるアクネ菌増殖阻害作用。(a)C. avidum基準株。(b)アクネ菌増殖阻害作用を持たないC. avidum臨床分離株。(c)アクネ菌増殖阻害作用を持つC. avidum臨床分離株。

    C. avidumによるアクネ菌増殖阻害作用。(a)C. avidum基準株。(b)アクネ菌増殖阻害作用を持たないC. avidum臨床分離株。(c)アクネ菌増殖阻害作用を持つC. avidum臨床分離株。(出所:東薬大Webサイト)

分析の結果、同抗菌ペプチドは、皮膚常在菌であるブドウ球菌属菌には作用せず、一部の近縁種の増殖のみを阻害することが判明。さらに、実際のニキビ患者から分離された薬剤耐性株に対する有効性も確認できたとしている。

  • C. avidumの抗菌スペクトル。

    C. avidumの抗菌スペクトル。(出所:東薬大Webサイト)

また、C. avidumのアクネ菌増殖阻害株と非阻害株の全ゲノム配列を比較することで、抗菌ペプチドをコードする「avdA」と抗菌ペプチドの産生と分泌に関与すると予想される遺伝子クラスタ「avdgene cluster」が特定された。そしてデータベースを用いて、今回解明されたタンパク質の配列に関する照合を行ったところ、環状の抗菌ペプチドであることが推測されたとのこと。それに加え、立体構造の予測においても環状であることが示唆されたことから、研究チームはC. avidumが産生する新規環状抗菌ペプチドをAvidumicinと命名したという。

  • ゲノム解析による抗菌活性に関与する遺伝子の推定。

    ゲノム解析による抗菌活性に関与する遺伝子の推定。(出所:東薬大Webサイト)

  • 既知の環状バクテリオシンとの比較。

    既知の環状バクテリオシンとの比較。(出所:東薬大Webサイト)

薬剤耐性菌の出現によって、新規抗菌薬の開発数は大きく減少しており、薬剤耐性を生じにくい新規抗菌薬の開発が強く求められている。Avidumicinは一部の細菌に対してのみ有効であることから、既存の抗菌薬のデメリットの1つである皮膚細菌叢の破綻を回避することが可能だ。さらに研究チームは、抗菌ペプチドに対する耐性菌は、抗菌薬に比べると極めて出現しにくいため、ニキビ治療における問題点である薬剤耐性菌の出現回避が期待できるとしている。