電子情報技術産業協会(JEITA)が事務局を務める「Green x Digitalコンソーシアム」は8月4日、企業サプライチェーンにおけるCO2データの見える化の実現に向け、仮想サプライチェーン上でCO2データ連携を行う実証実験に成功したと発表した。なお、CO2データは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が定める温室効果ガス(GHG)排出量のCO2等価量(kg-CO2 eなどと表記される)を指す。

同実証実験は、同コンソーシアムが策定したCO2データ算定方法と技術仕様を用いて、同データの算定ならびに連携を実施したものだ。同日には記者会見が開かれ、Green x Digitalコンソーシアムの活動内容とともに、実証実験の成果や今後の取り組みなどが説明された。

CO2排出の一次データを企業間でやりとり可能な仕組み

Green x Digitalコンソーシアムは、企業のカーボンニュートラル化の促進と、新たなデジタルソリューションの創出・実装に向けた活動の場として2021年10月19日に設立された。2023年8月1日時点で161の企業が会員として参画し、課題テーマごとにワーキンググループを立ち上げて活動している。

今回の実証実験は、サプライチェーン全体のCO2データを可視化する仕組みづくりなどを目標としている、同コンソーシアム内の「見える化WG(ワーキンググループ)」が実施した。

  • 「Green x Digitalコンソーシアム」の見える化WGの活動目標

    「Green x Digitalコンソーシアム」の見える化WGの活動目標

CO2排出量を削減するにあたって、現在ではさまざまな業界において、Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出 燃料の燃焼、工業プロセス)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)に加えて、Scope3(Scope1、Scope2以外で事業者の活動に関連する他社の排出)によるサプライチェーン排出量の測定がスタンダードとなっている。

だが、現在主流のScope3算定方法は、企業がサプライヤーから部品・製品を調達した際の金額を基に排出原単位(統計や学術研究のデータを掛け合わせたデータベースから参照する値)を使用するものだ。

見える化WGの主査を務める、NEC 環境・品質統括部 シニアプロフェッショナルの稲垣孝一氏は、「主流の算定方法では、調達金額を減らさないとCO2排出量が減ったことにならないという、おかしなことになっている。多くのサプライヤーが生産効率化や再生エネルギーの利用などでCO2排出量の削減に取り組む中で、当WGではサプライヤーが実際に排出している、または削減できたCO2の量をデータ化して、一次データとしてサプライチェーンでグローバルに交換できるような仕組みづくりを目指している」と述べた。

  • NEC 環境・品質統括部 シニアプロフェッショナル 稲垣孝一氏

    NEC 環境・品質統括部 シニアプロフェッショナル 稲垣孝一氏

独自のフレームワークと技術仕様を開発

実証実験は「フェーズ1」と「フェーズ2」で構成されている。フェーズ1では、実証実験で利用する「CO2見える化リューション」と「データ連携ソリューション」の相互接続テストを実施した。

フェーズ2では32の企業が参画し、Tier2(サプライヤー)、Tier1(セットメーカー)、Tier0(エンドユーザー企業)に分かれて仮想サプライチェーンを構築し、2つのソリューションを用いて、CO2データの取得、算定、活用、正確性検証などを含めたテストを実施した。

CO2データの算定方法と共有方法は「CO2可視化フレームワーク」に規定された。実証実験では、同フレームワークとともに、共通データフォーマットの考え方と詳細仕様、データ連携プラットフォームの考え方を提示する「データ連携のための技術仕様」が用いられた。なお、どちらもJEITAの公式ホームページで、すでに公開されている。

  • 実証実験の概要

    実証実験の概要

今回の実証実験では、Tier0の企業がパソコンを生産し、そのためにTier2、Tier1企業から素材・加工材を調達すると仮定し、Tier2、Tier1役の各社が算定したCO2排出量をTier0役まで伝達する、という流れでデータの算出、流通が行われた。

具体的には、Tier2、Tier1企業でCO2可視化フレームワークに基づいて製品レベルまたは組織レベルでのCO2データを算出。その後、データ連携のための技術仕様に基づいてTier1企業がTier2企業からCO2データを取得し、最終的にはTier0企業がTier1企業からCO2データを受け取って、CO2削減の改善に向けた内容が検討された。

  • 仮想サプライチェーンと企業の割り当て(製品レベル)

    仮想サプライチェーンと企業の割り当て(製品レベル)

素材から製品に至るまでのCO2データを算定・可視化

フェーズ2の実証実験チームのプロジェクトマネージャーを務めた、富士通 Sustainable Transformation事業部 シニアマネージャーの塩入裕太氏は、「32社参加という大規模な実証実験で当初の目的をすべて達成できた。素材から製品に至るまでのCO2データを算定し、異なる企業・異なるソリューション間で受け渡すことで、最終製品のCO2データを可視化することに成功した」と振り返った。

  • 富士通 Sustainable Transformation事業部 シニアマネージャー 塩入裕太氏

    富士通 Sustainable Transformation事業部 シニアマネージャー 塩入裕太氏

見える化WGでは、フレームワークと技術仕様を国際的に通用する基準にすべく、Scope3の国際的なイニシアティブであるPACT(The Partnership for Carbon Transparency)が定めるGHG排出量データの国際的な技術仕様「Pathfinder Network」 を参考に開発している

塩入氏によれば今回の実証実験では、PACTには含まれていない「Gate to Gate」データ(製品の製造工程のみに焦点を当てたデータ)を連携させることで、ある程度のホットスポット分析が可能であることを確認できたという。他方で、実証実験に参加した企業からは、細かなガイダンスやICT面のサポートの必要性が指摘されたそうだ。

今後、見える化WGはフレームワークと技術仕様をアップデートし、さまざまな業界に広めていくことで、CO2データを用いたScope3算定の社会実装を目指すという。

  • 見える化WGの今後の活動方針

    見える化WGの今後の活動方針