宮崎大学は8月3日、ヒトのB型肝炎ウイルス(HBV)に近縁で、ネコの慢性肝炎との関連が疑われる「ネコヘパドナウイルス」の感染受容体(レセプター)を同定することに成功したことを発表した。
同成果は、宮崎大 医学獣医学総合研究科のMaya Shofa大学院生(獣医微生物学研究室)、同・農学部の金子泰之准教授(動物病院研究室)、同・農学部および産業動物防疫 リサーチセンターの齊藤暁准教授(獣医微生物学研究室)らの共同研究チームによるもの。詳細は、ヒトや動物のウイルス感染の制御に関する全般を扱う学術誌「Antiviral Research」に掲載された。
HBVはヒトにおける慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんの原因ウイルスの1つで、厚生労働省によれば、日本国内では110~120万人の感染患者がいるとされる。また、世界保健機関(WHO)によれば、2019年時点で世界で約2億9600万人が感染しており、毎年約150万人が新たに感染していると推計され、毎年約82万人がHBVが原因で亡くなっているという(その大半が肝硬変と肝細胞がん(原発性肝臓がん)とする)。
近年、このHBVに遺伝的に近縁でネコの慢性肝炎との関連が疑われるネコヘパドナウイルスの感染が日本国内においても報告されている。しかし、ウイルス学的解析を進めるにはウイルスが細胞に感染する際に利用するレセプターの同定が不可欠だが、いまだに不明のままであるため同ウイルスの分離には成功しておらず、そのウイルス学的な解析はあまり進んでいないという。そこで研究チームは今回、同ウイルスのレセプターの同定に取り組むことにしたという。
結果、胆汁酸トランスポーター「NTCP」がネコヘパドナウイルスのレセプターであることを突き止めたとした。また、HBVおよびネコヘパドナウイルスが、ヒトNTCPとネコNTCPの両方をレセプターとして用いることができることが示されたとともに、ヒトのウイルス性肝炎の治療薬として用いられている薬剤が、ネコヘパドナウイルスに対しても効果を発揮することも確かめられたという。
今回の研究成果により、同ウイルスについてのウイルス学的理解が進み、今後、同ウイルスに感染したネコについての、新たな特異的治療法の開発につながることが期待されるとした。また、ヒトにおけるHBV感染と同様の病態を示すネコヘパドナウイルスは、現在その発展が求められているB型肝炎動物モデルとしても期待されるとする。
そして研究チームは、今後もネコヘパドナウイルス感染状況の積極的な把握と慢性肝疾患との関連について研究を進めていくことで、ネコの健康維持ならびに慢性肝炎の治療法開発に貢献していきたいと考えているとした。