東北大学、国立極地研究所(極地研)、千葉経済大学の3者は8月3日、降り込み電子と大気との衝突に対して、低高度になるほど強まる地磁気の効果に着目した精密な数値シミュレーションを行った結果、地磁気により電子が跳ね返される効果が予想以上に大きいことを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科 地球物理学専攻の加藤雄人教授、独・ハイデルベルク大学のパウル・ローゼンダール大学院生(2019年短期留学プログラムJYPE学生)、極地研の小川泰信教授、千葉経済大の田所裕康准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球惑星科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Earth, Planets and Space」に掲載された。

地球の極域で輝くオーロラは、磁力線に沿って宇宙空間から降り込んできた高エネルギー電子が、大気中の窒素や酸素などと衝突することで生じている。この衝突は、酸素や窒素などの原子や分子が電離させ、電離圏電子密度の変動を引き起こしているという。また近年は、数秒周期で明滅する「脈動オーロラ」が発生する時に、数十万eVを超える相対論的電子(宇宙放射線)も同時に降り込んできていることが明らかになってきている。高エネルギー電子は、地球大気の中間圏高度(50km~80km)にまで達することが知られており、オゾンの消失過程にも影響を与えると考えられている。

今回の研究では、国際宇宙ステーション(ISS)が位置する高度400km程度から下の、超高層大気での電子と大気との衝突過程について、地球に近づくほど強まる地磁気が電子の運動に及ぼす影響を精密に取り入れて、大気と衝突しながら降り込んでくる電子の運動を解き進めたという。

どの高度でどの程度の頻度の衝突が起きるかを詳細に計算した結果、降り込んできた電子を地磁気が跳ね返す効果が、従来の予想以上に顕著であることが明らかにされたとする。この跳ね返りの効果は、大気に入射する角度が大きな電子ほど強くなり、また、電子のエネルギーが数十万eVを超えると、特に顕著になることも確かめられた。

  • 地磁気による跳ね返りの効果を精密に取り入れた計算で得られた、極域大気に降り込んできた電子と大気との衝突率の高度分布。

    地磁気による跳ね返りの効果を精密に取り入れた計算で得られた、極域大気に降り込んできた電子と大気との衝突率の高度分布(太い実線)。磁力線に平行に降り込んできた場合(点線)や、跳ね返りの効果を含めずに70度の角度で降り込んできた場合(細い実線)を比較すると100km以下に到達する十万電子ボルト以上の電子による衝突率が1~2桁低下することが示されている。(出所:共同プレスリリースPDF)

  • 大気と衝突しながら降り込んでくる電子の軌跡。地磁気による跳ね返りの効果を考えない場合(a)に比べて、跳ね返りの効果を考慮した場合(b)には電子の軌跡が総じて上向きに変化していくことが示されている。

    大気と衝突しながら降り込んでくる電子の軌跡。地磁気による跳ね返りの効果を考えない場合(a)に比べて、跳ね返りの効果を考慮した場合(b)には電子の軌跡が総じて上向きに変化していくことが示されている。(出所:共同プレスリリースPDF)

さらに跳ね返りの効果の結果として、大気が濃くなっていく高度100km以下では、衝突率が1桁以上低下することが示された。衝突頻度の高い領域が80km以下の低高度と130kmの高高度の2か所に分かれることも突き止めたという。

宇宙放射線の中でも、真空中の光速の秒速約30万kmに迫る速度を有する電子は、相対論的効果を無視できないことから「相対論的電子」と呼ばれる(電子以外の荷電粒子も含めて「相対論的粒子」と呼ぶこともある)。このような相対論的なエネルギーを持つ電子は、軌道上で衛星の障害を引き起こすことなどから「キラー電子」とも呼ばれ、宇宙飛行士の被曝の要因ともなることが知られている。キラー電子は地球を取り巻く放射線帯に多く存在しており、近年、太陽表面で発生する爆発現象のフレアにより、その量が増減することが判明している。なお、キラー電子の消失過程としては、磁力線に沿って地球の極域に降り込み大気と衝突することによる消失が主要因とされている。

研究チームは、今回の研究で明らかにされた地磁気の役割を考慮することにより、キラー電子の降り込みによる電離圏の電子密度変動の正確な理解が一層進むことが期待されるとしている。