近畿大学(近大)と吉本興業は2022年4月より行っていた「笑い」を医学的に検証する研究の第2弾の結果として、がん経験者がお笑いを鑑賞し続けることで、健康関連の生活の質や抗酸化能力、不安、うつなどを改善する効果がある可能性を見出したと発表した。
同成果は、近大医学部 臨床医学部門研究室(緩和ケアセンター部門)の阪本亮講師、同 内科学教室(心療内科部門)の小山敦子教授(執筆当時)を中心とする研究チームと、吉本興業ホールディングスとの共同研究によるもの。詳細は、多分野の国際的な医学雑誌「Cureus」のオンライン版に掲載された。
日本で2人に1人が生涯のうち1度はがんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなると言われている一方で、検診による早期発見や医療技術の進歩によって治療後の生存率は向上しており、がんは長く付き合っていく慢性病に変化しつつあるとも言える。
そうしたがんの経験者は神経障害や再発の恐怖などさまざまなストレスに脅かされていることが多く、そうした生活から体内の酸化ストレスが高まることで多くの不調につながると考えられている。そこで研究グループは、こうした課題を持つがん経験者に対して「笑い」がよい影響を与えるのではと考え、2017年に第1弾の研究を実施。笑いが「緊張・不安」「怒り・敵意」「疲労」のスコアを改善することを報告していた。
そして、今回はその第2弾として、がん経験者がお笑いを鑑賞し続けたら、健康関連の生活の質や精神状態、酸化ストレス、抗酸化力などへ、どのような影響を与えるかについて調査したという。
具体的には、がん経験者50人(男性10人・女性40人)を対象に自宅などで名人による漫才と落語などの3種類のお笑いDVDを毎日15分以上4週間鑑賞してもらい、その後採血による酸化ストレス測定とアンケートによる心理検査を実施。最終的には43人の結果を分析したとする。
また、評価は9つの項目により行われ、得られた結果に対してはデータが正規分布をしていないときに用いる検定方法であるノンパラメトリック検定の1つで、対応のある2群以上の多群の差を検定する「フリードマン検定」で実施。
結果、FACT-G(がん経験者のQOL評価)、EQ-VAS(健康状態の自己評価)、HADS-A(不安)、HADS-D(うつ)の4つの項目に対して、初日から2週間以上継続してお笑いを鑑賞することで有意差が確認されたとすると共に、BAP(抗酸化力を評価)(p<0.01、d=0.49)、OSI(酸化ストレス指標)(p=0.03、d=0.33)、BAP/d-ROMs(潜在的抗酸化能)(p<0.01、d=0.51)についても有意差を確認したという。
研究チームでは、これらの結果から、毎日のお笑い鑑賞にはがん経験者の生活の質や抗酸化能力、不安、うつを改善する効果がある可能性が示唆されたとしているほか、今回の研究成果に対して、笑いは安全性かつ利便性が高く低コストでできる価値の高い手段であるとの考えを示しており、今後の笑いによるがん経験者の生活の質向上の手法確立などにつなげていきたいとしている。