立命館と日本マイクロソフトは8月3日、「連携・協力に関する協定書」を締結したことを発表した。同協定に基づき、2024年4月に「Microsoft Base」が立命館大学(立命大)に設置される。同施設が日本の教育機関に設置されるのは今回が初となる。
今後、両者はDX(デジタルトランスフォーメーション)人材育成やスタートアップ創成支援で連携するほか、立命館大学オリジナルの生成AI(ジェネレーティブAI)の開発を進める。 同日には記者会見がハイブリッド形式にて開かれ、今回の連携協定の目的や今後の取り組みが明かされた。
立命館 総長 仲谷善雄氏は、「AIを始めとした先端技術の急速な展開により、大学の教育の形やキャンパスが大きく変わる転換の時期を迎えている。立命館はそうした変化の先端に立ち、学生たちのクリエイティブな発想を育み、多様なプレイヤーとの協働によるタブーなき挑戦を後押しする新たな学びの場の創造を目指している。日本マイクロソフトと日本の教育、社会に対してより高い価値を提供していけるよう取り組んでいきたい」と語った。
DX人材育成とスタートアップ支援のための新拠点
Microsoft Baseは、日本の企業・組織のDX支援を目的に日本マイクロソフトが運営している物理拠点だ。同拠点では2023年8月3日時点で全国に計26拠点を展開しており、Microsoft製品に関する情報発信、セミナーやハンズオン、マイクロソフト認定資格トレーニングなどが実施されている。
2024年4月には、立命大の大阪いばらきキャンパス(OIC)に竣工する新棟内に、「Microsoft Base Ritsumeikan」が設置される。なお、Microsoft Baseが日本の教育機関に設置されるのは今回が初となる。
立命館は2030年に向けた中期経営計画「学園ビジョン2030 挑戦をもっと自由に」の施策として、現在、「TRY FIELD」という新しい学びの場づくりをOICで展開している。TRY FIELDではテクノロジーを活用した学びの発展、創造を目指しており、今回の協定は同取り組みの実現に向けて結ばれた。
Microsoft Base Ritsumeikanは、TRY FIELD実現に向けてさまざまな挑戦を行う拠点に位置付けられており、今後は「人材育成」「スタートアップ創成支援」「新たな学びの創造」に取り組んでいくという。
具体的には、日本マイクロソフトからスタッフを派遣し、DX人材・デジタル人材の育成プログラムを実施するほか、クラウド技術を活用したビジネス事例や、社会実装事例に関するセミナーや交流イベントなども開催するという。
また、Microsoft Base Ritsumeikanは立命大の学生や教職員以外も活用できるオープンな場をコンセプトとしている。同施設では、日本マイクロソフトと共同で地域や社会人向けにセミナーやネットワーキングを開催し、自治体、企業向けにDX推進のコンサルティングや産学連携もサポートする。
スタートアップ創成に向けては、立命館がこれまで推進してきたスタートアップ支援プログラム「QULTIVA」「OIC CONNECT」「RIMIX」と「Microsoft for Startups」を連携させる。日本マイクロソフトは、クラウドサービスやツールを無償で提供する。このほか、スタートアップの起業を目指す学生に技術面の支援およびネットワーク形成の支援を行い、起業後の製品・サービスの拡販支援なども実施していく予定だ。
新たな学びの創造では、社会で求められているDX人材に必要な知識を修得でき、時代に即したデジタルスキルを身につけられるカリキュラムを開発するという。加えて、メタバース上での実証実験や、XR(Extended Reality)技術を活用した教育・研究の実践など、新たなコニュニケーション空間の創造にも取り組む。
日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長の中井陽子氏は、「今回の協定は新しい学びの場を作ろうとしている立命館との関係をさらに発展させるものになる。クラウドサービスや各種ツールのほか生成AIやメタバースなどの新しいテクノロジーの利活用支援や、教育カリキュラムの開発支援、産学連携の推進に貢献していく」と述べた。
2023年度から教育サービスとして生成AIを学内で提供
会見では、立命館大学オリジナルの生成AIである「R-AI(仮称)」についても解説された。同AIは、質問を通じて同大学内の情報を網羅的に検索・収集できる教育サービスとしてリリースされる予定だ。
開発にはAzure OpenAI Serviceが利用されており、立命大に関する情報に特化したAIとなるよう、現在は同大学内のシステムで管理している最新情報や規定、内部資料をR-AIに学習させている段階だという。AIの利用環境は職員や学生、教員などのユーザー属性により参照する情報を分けられるように構築していく。
他方で、内部情報や質問内容などの外部への情報漏洩が発生しないよう、立命大では独自のAI利用環境を構築する計画でいる。データセキュリティの具体的な措置については、同大学と日本マイクロソフトで検討中だそうだ。
立命館 総合企画室 副室長の三宅雅人氏は、「R-AIは段階的に公開していく。2023年度内には一部の機能を可能な範囲で公開する。どの段階までの機能実装で公開するかはこれから日本マイクロソフトと協議していく」と説明した。
三宅氏によれば、将来的にR-AIを大学内の研究のサポートに応用する構想もあるという。例えば、経済学部のマーケティング研究のデータや心理学のアンケート調査の統計分析データなどをAIに学習させて、参考文献の検索や新たな研究テーマの探索などにも活用できるかもしれない。
「OCIには現在文系学部しかないが、2024年4月には情報理工学部と映像学部が移転し、約1万人の理系学生が合流することになる。新たなテクノロジーに触れられることに加え、これまでになかったようなコラボレーションが起こり、研究成果の社会実装にも繋がっていくのではないかと期待している。Microsoft Base Ritsumeikanは、そのあたりを後押しするきっかけになると考える」と三宅氏は意気込んだ。