オムロンは8月1日、同社が主にマウス用途向けに提供を行ってきた、繊細な操作感を実現する操作用マイクロスイッチ3シリーズについて、グローバル向けにスイッチ単体での一般販売を開始したことを発表した。
マウス向けに開発してきたスイッチ技術を他領域に展開
近年は、5Gや6Gといった次世代高速通信の普及、および半導体技術の進歩によるデジタル化社会への変化が進んでおり、その中でハンディキャップや物理的制約を克服した遠隔制御やVRに対するニーズが高まっている。介護や建設現場などさまざまな領域で遠隔ロボットなどの導入も広がっており、長時間にわたる安心・安全な機器コントロールが求められている。
こうした遠隔制御のさらなる普及や高度化を実現するためには、ユーザーが使用する入力デバイスにおいて、長時間かつ高頻度の操作をストレスなく意志通りに行える必要があり、入力デバイスに内蔵される部品の操作性や耐久性も重要になる。
そこでオムロンは、これまでマウス向けに、特に昨今需要が急拡大しているゲーミングマウス向けに開発・提供を進めてきた操作用マイクロスイッチを、遠隔制御やVR機器などの多様なアプリケーションにおける入力デバイスにも活用するべく、今般マイクロスイッチ単体での一般向け販売を開始するとしている。
今回販売を開始するのは、マウスメーカー向けに販売を行ってきた3シリーズ。1999年に発売し大手マウスメーカーでも採用実績のある「D2FC」、機器の小型化ニーズに対応するため超小型低背設計を採用した「D2LS」、ゲームコントローラとして重要な応答速度を向上させた光学式の「D2FP」となる。
スイッチ開発の背景には「eスポーツの進化」
これらのマイクロスイッチ製品群について、オムロンの担当者は、「優れた操作性」「高耐久性」「高速応答性」の3つを軸とした性能向上を続けてきたとする。また技術開発に対する要求の高まりには、eスポーツの普及が大きく影響していると話す。
感覚的な“押し心地”を定量化し開発に活用
操作性の追求においては、人間工学に基づいて歯切れのいい押し心地を目指したとのこと。これにより、長時間かつ高頻度のスイッチ操作でも疲れにくい設計につながるという。しかしこうした押し心地は個人差が生じる感覚であるため、定量化が難しい。とはいえeスポーツにおいては、ゲーミングマウススイッチの押し心地が勝敗を左右することもあり、性能向上のためには押し心地を向上させる要素の特定から始める必要があった。
そこでオムロンでは、スイッチの設計数値を変更した複数のマウスを押し比べ、その感覚についてアンケートを実施。“重い”や“深い”といった「感性ワード」と設計数値とを関連付けることで、感覚に依存しやすい押し心地の定量化を行ったとする。
シミュレーションを活用した設計検討による耐久性向上
繰り返しかつ高速な操作を行うeスポーツの出現によって、ゲーミングマウスのスイッチに必要とされる寿命回数が飛躍的に向上した。個人向けPCが普及した2000年ごろには、マウススイッチに求めれられるクリック操作寿命は500万回程度だったとのこと。しかしeスポーツの出現以降は増加の一途をたどり、今では5000万回を優に超える寿命が求められるという。ほかの用途でのスイッチの操作寿命が100万回程度という点を鑑みると、その要求が桁違いに大きいことがわかる。
そこでオムロンは高耐久性を満たす設計を実現するため、CAEをスイッチの設計段階に導入し、シミュレーションを活用した開発を開始。複雑な操作が関わるスイッチをCAE上で再現するには苦労したというが、その構築を経て材料の物性や疲労などをより正確に検討することで、ものづくり段階での性能を担保しているとする。
応答高速化を目指し光学式センサを採用
またeスポーツにおいては、クリック操作に対する応答速度が勝敗に直結する。CPUやUSBの性能向上も加速する中で、マウスの応答速度に対する要求も高まっていたという。また速度だけでなく、誤入力を防ぐ安定性も重要となるが、メカニカル接点によりオンオフを切り替えるスイッチの場合、外的な物理的要因によってスイッチ操作に影響が加わる「チャタリング」を完全に避けることは難しい。
こうした要求を満たすため、オムロンはマウススイッチ製品群のうちD2FPに光学センサを採用。物理的な接触が関与しない方式にすることで、応答速度や安定性を向上させたといい、その応答速度は、メカニカル接点を用いた場合は5msだったのに対し、光学式センサを採用した製品では0.015msにまで高速化したとしている。
遠隔制御向けで年間2000万個の販売が目標
eスポーツの急速な発展により高度化したゲーミングマウスへの需要に応えるため、技術開発を重ね、性能向上を続けてきたオムロンの操作用マイクロスイッチ。現在そのほとんどがマウス用として使用されているものの、企業方針として遠隔制御やVRへの注力を掲げたことを受け、その技術をさまざまなアプリケーションへと広く展開することとなった。
現時点では販売目標として、2026年3月末時点で遠隔制御向けに年間2000万個の販売を掲げているといい、マイクロスイッチの売り上げのうち2割程度を遠隔制御用途が占めることが理想的だとする。
今後の製品開発について、製品担当者は「遠隔制御などはまだまだ市場が発展している途上にある。我々としてはその市場やニーズの進化を注視しながら、新たなアプリケーションや新製品の開発を進んでいきたい」と語った。