熊本大学は8月1日、「タンニン酸」(TA)と超高分子量の「ポリエチレングリコール」(PEO)を水中で混合すると、1000%以上もよく伸びるゲル「TaPeOゲル」が得られることを明らかにし、また同ゲルを乾燥させたものは、500gの負荷をかけても破断せず、切断しても元に戻る自己修復能や元の形に戻る形状記憶能を有していることを確認したと発表した。

同成果は、熊本大大学院 先導機構/大学院 生命科学研究部(薬学系)の東大志准教授、同・大学大学院 薬学教育部の後藤唯花大学院生(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、材料科学/工学に関する全般を扱う学術誌「Results in Materials」に掲載された。

お茶を飲んだ際に感じられる渋みの要因となるタンニン酸。このタンニン酸は、ポリエチレングリコール(PEG)を水中で混合するだけでゲルを形成することが海外の研究で発見され、分子量1万ほどのPEGと混合させた場合、粘性の高い液体のりのような物質ができることが明らかにされている。

  • タンニン酸と分子量1万のPEGを混合させたゲルやタンニン酸と分子量50万のPEOを混合させたゲル

    (左)タンニン酸と、分子量1万のPEGを混合させたゲル。(右)タンニン酸と、分子量50万のPEOを混合させたゲル(出所:熊本大プレスリリースPDF)

そこで東准教授は、さまざまな分子量のPEGのうち分子量50万という超高分子量のPEGであるPEOで試行することにし、水中でタンニン酸と混合させた結果、既報のタンニン酸/PEGゲルとはまったく性質の異なるゴム状のゲルが得られたとした。非常にユニークなゲルであると感じたことから、興味を持った複数の学生と「タンニン酸ファミリー」を立ち上げ、同ゲルをTaPeOゲルと命名しその詳細を調べることにしたという。

  • TaPeOゲルとTaPeOフィルムのごみゼロ調製法

    (A)TaPeOゲル。(B)TaPeOフィルムのごみゼロ調製法(出所:熊本大プレスリリースPDF)

まず同ゲルを圧縮成形した上で、引張試験が実施された。その結果、同ゲルは一定の条件で調製したゼラチンゲル「アガロースゲル」および「アクリルアミドゲル」よりも強靭で、最大で自長の1000%以上になるほどよく伸びることが判明。また同ゲルを切断し、切断面を接触させると再接着することも確認され、自己修復能があることがわかったという。

  • 引張試験時のTaPeOゲルと応力-ひずみ曲線

    (A)引張試験時のTaPeOゲル。(B)応力-ひずみ曲線(出所:熊本大プレスリリースPDF)

次にゲルを乾燥させ、「乾燥TaPeOゲル」が調製されたとする。同ゲルはプラスチックのように固く軽量で、500gの負荷をかけても破断しないことが明らかにされた。一般的なプラスチックは一度破断すると元には戻らないのは誰もが知るところだが、同ゲルは破断しても破断面をお湯に浸した後に接触させるだけで、破断面が視認できなくなるほど元通りになったという。すなわち、乾燥させても自己修復能を示すことが確かめられたのである。自己修復させた同ゲルは500gの負荷をかけても形状が維持され、その強靭性は破断前のゲルと同じだったとした。

  • 乾燥TaPeOゲルの自己修復と修復ゲルへの応力負荷

    (A)乾燥TaPeOゲルの自己修復。(B)修復ゲルへの応力負荷。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

乾燥TaPeOゲルはそのままでは固くて変形しないが、お湯に浸すと変形し、さらに室温でしばらく放置するとその形状を固定することができたとする。変形した状態でさらにお湯に浸すと、一番最初の形に戻せることも確認されたという。同ゲルは形状記憶能を有していることも明らかにされたのである。

  • 乾燥TaPeOゲルの形状記憶能

    乾燥TaPeOゲルの形状記憶能(出所:熊本大プレスリリースPDF)

TaPeOゲルを調製する際には、不要な上清(懸濁液)が生じる。その上清には、ゲルを作れなかった未反応のタンニン酸やPEOが含まれていると予想されたことから、その上清を乾燥させることでフィルムを作れる可能性を考えたとする。実際に上清を捨てずに乾燥させたところ、透過性のある「タンニン酸PeOフィルム」が得られ、伸長率1500%以上と、試験機では測定できないほどよく伸びることが突き止められた。

  • TaPeOフィルムの応力-ひずみ曲線

    TaPeOフィルムの応力-ひずみ曲線(出所:熊本大プレスリリースPDF)

タンニン酸は安価で安全性も高く環境に優しい素材であり、なおかつ抗菌作用や抗ウイルス作用も有する。さらに、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果も報告されているという。今後は、このような知見を有効活用し、医療材料などに応用していく予定としている。