Intelの日本法人であるインテルは8月1日、2023年下半期における自社のブランド戦略ならびにマーケティング活動についての記者説明会を開催。企業文化そのものを変えることに挑んでいる姿を打ち出した。

  • インテル代表取締役社長の鈴木国正氏

    Intelの文化が現在、どのように変わっていっているのかについて説明を行ったインテル代表取締役社長の鈴木国正氏

インテル代表取締役社長の鈴木国正氏は、現在の同社のフォーカスエリアは大きく「レジリエンスを備えたサプライチェーン」、「進化するムーアの法則」、「AIの『民主化』」の3つと説明。同社は4年間で5世代のプロセスノードを投入することを掲げており、順調に開発が進んでいることをIntelのPat Gelsinger CEOが最近でもアピールしていたが、鈴木氏は「この3つをやりきるというのは、これまでのIntelの姿ではない。明らかに今の時代の半導体のリーダーとしての方向性を示すもので、Intelが文化的にトランスフォーメーションをしていることを意味する」と説明したほか、「インテルでしかできないことを、顧客命題で考えるということがテーマになっている」とし、そうした思いが2023年6月に開催した「Intel Connection 2023」にも込められているとした。

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  • インテルのフォーカスエリアと高い技術力と中立性をもったインテルの役割(2019年の資料を改めて転用している)

鈴木氏も、「基調講演は台本なしに、それぞれの登壇者の思いを語っていただいた。インテルが変わっていくという姿を、ほかの企業とは異なる形で明確にしていくというシンボリックなイベントになったと思う」と同イベントを振り返り、強力な技術力を有していることを踏まえ、中立性を保っているからこそ、いろいろな企業や人をつなぐことができることに触れ、それこそが、新たな文化の醸成につながることを強調した。

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    「Intel Connection 2023」の基調講演の1つ。衆議院議員の小林史明氏(右)を招いて、日本としてのトランスフォーメーションの方向性についての議論の様子。同イベントについても鈴木氏は、「人と人、企業と企業、業種と業種、あるとあらゆるネットワーキングの場として活用してもらうために開催した」と、インテルを前面に押し出すのではなく、インテルがパートナーを支援するといった姿勢を打ち出していた (編集部撮影)

この文化の醸成について、同氏は「Value Based Selling(VBS)」をIntel流にしっかりとやっていくという宣言であると説明。具体的には、これまでのIntelは自社のCPUの性能の高さを打ち出していたが、そうではなく顧客が必要とするソリューションに沿った半導体を提供していくというアプローチであり、それが顧客にとって中長期的な価値を創造することにつながると指摘。「実は、Intel社内でもこうした取り組みは日本が多少先行する形で取り組んでいたもので、グローバルのイベントでも日本での、この3~4年のシリコンを超えて顧客に寄り添っていく取り組みを紹介する機会などもあり、我々の掲げていた方向性が間違っていなかったというモチベーションにもつながっている」と、日本での取り組みがグローバルの手本になるところもあるとしたほか、「結局のところSellingに行きつくのか、という見方もあるが、VBSというひとくくりのマーケティング用語であって、本質はSellingというよりも、顧客と一緒に考える、顧客のやっていきたい戦略の一部を担うんだ、という意識」が本質の部分であると説明。グローバルでそうした意識の醸成が進みつつあり変化が起こっているとする。

また、その価値創造には「顧客的要素」、「マクロ的要素」、「半導体業界的要素」の3つが混ざり合うのが現在であるとし、「世の中すべてが半導体を理解しないと価値の創造ができないケースが増えてきた。そうした中でインテルがやるからこそ、顧客の取り組みに価値がでてくる。そうした顧客をベースに考えているインテルと一緒に何かを始めましょう、という思いが新たなスローガン『it starts with Intel』という言葉に込められている」と、これまで以上に顧客に寄り添っていく姿勢を全社挙げて突き進んでいくことを強調する。

  • 「it starts with intel」

    新たなタグラインとなる「it starts with intel」

「始まりはインテルと」の「と」に込めた思い

新たなタグライン「it starts with Intel」を日本語にすると、「始まりはインテルと」になるが、「このwith、日本語にすると『と』の部分にインテルの心がこもっている」とインテルのマーケティング本部長を務める上野晶子氏は説明する。

  • 「始まりはインテルと」

    「it starts with intel」を日本語で表すと「始まりはインテルと」となる

この思いを具現化する取り組みがマーケティング戦略につながるわけだが、ビジネスに向けた基本線は「大きな社会課題を顧客の目線で考えて、その解決をインテルと一緒にやっていきませんか」というものとなる。

  • 上野晶子氏

    マーケティング戦略の説明を行ったインテル マーケティング本部長の上野晶子氏

例えばIT部門に向けては、「本来は企業の成長に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)やデータセントリックトランスフォーメーション(DcX:データを価値のあるものにして、それを活用して事業に変革をもたらす取り組み。インテルの造語)を活用したいと思っているが、リモートワークの設定などいろいろやらないといけないことが増えると、本来の企業の成長のために経営陣に新たな戦略を提案するといったことがなかなかできなくなる。そうした本来必要な提案を実現するために、IT管理の時間やデスクサイドサポートの時間をどうやって削減していくかを考えていく必要があるほか、サーバの運用管理の時間削減などに向けた取り組みなども必要になってくる」とし、そこでITの運用管理の容易化の1つの手段のために、長年推進してきたvProに対して、新たなにVTuberを起用するなど、これまでになかった角度からの視点を含めたプロモーションを進めていくとするほか、vProを活用していってもらうための2つのコミュニティを立ち上げたことを紹介。そうした取り組みを通じて、IT部門が本来やらなければいけない戦略的な思考の時間を取り換える手助けをしていきたいとしている。

  • ビジネス向け戦略
  • ビジネス向け戦略
  • ビジネス向け戦略
  • ビジネス向けとしては、企業の成長支援がキーワード。そのためにIT部門の抱える課題の解決をIntelのテクノロジーで支援いけるかがポイントになるとする

また、デジタル人材の育成に向けた教育分野への取り組みとしては、「デジタル人材を育成するための人材を育成するために必要な情報が不足しているといった課題もあるので、ある自治体での成功事例の紹介や育成プログラムなどを用意することで知見を広げる手助けをしていきたい」とするほか、中立な立場のインテルだからこそ、自治体や企業といった点と点をつないで、マッチメイクを進めていくことで、その先の未来を生み出すことも想定。「インテルがつなげて、伝えていくことで大きく広げられるのではないか」(上野氏)と、そうした広げるといった部分に注力していきたいとする。

  • デジタル人材の不足を支援するプラットフォームも構想して掲げている

    デジタル人材の不足を支援するプラットフォームも構想して掲げている

一般消費者向けも顧客目線であることに変わりはないとする。IntelのCPUを世代ごとに追いかけているような人は別として、大多数のPCを使うユーザーについて上野氏は、「そもそも何のためにPCを買うのかということを考える必要がある。PCはやりたいことがあって、そのために買うもので、そのやりたいことは何か、それを実現するためのPCはどのようなものがあるのかをアドレスしないといけない。そのためのPCを選んでいくプロセスが楽しいと思ってもらえなければいけない。そのためのアプローチをしていく」とし、どういったPCが自分のやりたいことにマッチしているのか、ということをきっちりと説明できるようにしていきたいとするほか、「若い人の間でもゲームをやりたいと思って自作PCを欲しくなることがあるが、どこに相談したり買いに行ったりすればいいのか分からないという壁があることが調査から判明した」とのことで、PCショップの店員などに向けた自作PCに関するマイスター制度を立ち上げることを計画。具体的には上級、中級、初級の3種類の研修レベルを用意。初級は小学生でも取得できるカリキュラムを想定しており、中級と併せて夏以降にスタートする予定だとしている。

  • マイスター制度でそうした人達の自作に対する敷居を下げることを目指す

    動作周波数競争華やかりしころの次々と新しいパーツが登場していた90年代後半などはともかく、最近はゲームしたいならBTOといった風潮もある一方、ゲームをやるためによりよいPCが欲しいというニーズもあるとのことで、マイスター制度でそうした人達の自作に対する敷居を下げることを目指すとする

また、同社は次世代の「Meteor Lake」(開発コード名)からCPUブランド「Intel Core」を刷新することを6月にアナウンスしているが、「PCを選ぶときに、何を選んだらいいかが分からないということで、これまでの第x世代Coreという位置づけを廃止し、常に最新世代のその時期のベストなCPUを『Core Ulrta』と位置づけ、それ以外(前世代など)を『Core』としていく」とその製品展開の考え方を説明する。

  • Core Ultra

    IntelのCPUのラインナップは多岐にわたるようになっており、何がどれくらい違うのかが分かりづらくなっていた反省から、一番いいCPUをCore Ultraと位置づけ、一目で分かるようにするとしている

上野氏は「PCがすごいのではなく、クリエイティブな作業に没頭するための待ち時間を減らす、意味のない時間を意味のある時間に変えるためにインテルのテクノロジーが役に立っていく。半導体を理解してもらうのではなく、どこでどうPCが使われていて、そのPCを使う人が何のために浸かっているのかを忘れないようにしたい」と、常にユーザー目線でインテルは今後の事業を展開していくことを強調。エコシステムのパートナーに多くに人や企業がなってもらい、そのパートナーシップの中でいろいろなことを成し遂げるための取り組みを支援していきたいとしており、それこそがタグラインの「with(と)」の部分に込めた思いであり、インテルがこれまでの半導体を紹介していく会社から、それを使っていく人の目線に立って、どう役に立っていくかを心がけていくとしている。

なお、Intelとしては現在、ファウンドリ事業(Intel Foundry Service:IFS)にも注力しており、2023年第2四半期決算でも同事業は前年同期比307%増という高い伸びを示している。鈴木氏も「日本においてもIFSの概念は重要」としており、多くの企業とIFSの活用に向けた議論や紹介を行っている中で、「顧客視点に立った時にIFSが重要という意味になれば良く、CEOも日本法人を後押ししてくれており、日本法人であるインテルがIntel全体を代表しているという姿が打ち出されるのが、この分野の日本での取り組みになる」と説明。今後も、インテルだから支援できることといった視点でより多くの顧客との連携を強めていきたいとしている。