中国政府が先月発表したように、8月1日から希少金属であるガリウムとゲルマニウムの輸出規制が始まった。今後、中国からガリウムとゲルマニウムを諸外国へ輸出するには、事前に政府への申請が必要で、日本は中国がどの程度厳しい対応を取るのかを注視している。
この規制の背景には、昨年秋以降激化する先端半導体覇権競争がある。バイデン政権は昨年秋、先端半導体が中国によって軍事転用されるのを防止するため、同分野における対中輸出規制を強化した。そして、バイデン政権は今年1月、先端半導体の製造装置で高い世界シェアを誇る日本とオランダに同調するよう呼び掛け、日本は7月下旬から先端半導体関連23品目で対中規制を行動に移した。
今日、中国は先端半導体分野で台湾や米国、日本などに後れをとっているが、軍の近代化を進めたい習政権としては是が非でも獲得したいものであり、中国側の不満は募るばかりだ。ガリウム・ゲルマニウム規制は、その対抗措置である。
未来のことは誰にも分からない。しかし、台湾有事など米中の間で緊張が一気に高まるシナリオを除き、今後中国側から日本経済に大打撃となる対抗措置が取られる可能性は低い。その根拠は国内事情にある。
今日、中国国内の経済事情は良くない。以前と比べ、中国の経済成長率は大きく鈍化傾向にあり、若年層の失業率は20%あまりを記録し、雇用問題が大きな社会問題になっている。3年にわたるゼロコロナ政策で、企業や社員は十分にビジネスをできなくなり、社会的、経済的な不満が高まり、その矛先は共産党政権に向いている。
要は、今日の習政権がもっと直面している問題は経済、雇用なのだ。そのような状況で、諸外国と貿易摩擦が激化することは習政権にとって当然得策ではない。仮に、中国が米国や日本が実行した措置以上に厳しい措置を取ればどうなるだろうか。特に、中国への警戒感を強める米国はそれに見合った対抗措置を取ったり、同盟国や友好国との結束をさらに強化したりする可能性があり、中国は自らが取った措置以上の跳ね返りに直面する可能性があるのだ。
また、外資の脱中国に歯止めが掛からなくなるだろう。今日、欧米や日本の企業の間では脱中国依存が広がるなか、中国による対抗措置がエスカレートすれば、外資の脱中国がいっそう拡大する可能性がある。国内の経済事情を考慮すれば、習政権は何とかして外資の撤退を抑える必要があり、最近もイーロンマスクやビルゲイツなど大物経営者が相次いで訪中した際、熱烈な歓迎を受けたのはそれを物語る。世界の工場として君臨してきた中国にとって、外資の撤退は国内経済にとって大きなマイナスとなる。
当然ながら、日本企業としては、中国がどういった対応をしてくるかを注視していく必要がある。だが、過剰に心配することも良くないだろう。メディアではリスクを過剰に煽るような記事も多くある。しかし、台湾有事など最悪の事態を除き、現在の環境が続く限り、中国側にも強い態度に出れない事情があるのだ。