厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は7月31日、第一三共(東京都中央区)が開発した新型コロナウイルスワクチンの製造販売の承認を了承した。厚労省は近く正式に承認する見込みで、国内の製薬企業が開発した新型コロナワクチンでは初めて。
このワクチンは新型コロナの流行当初の従来株に対応した型で、国内での大規模接種に使われるめどは立っていない。第一三共はこれまで蓄積した技術を生かして変異型対応のワクチン開発を急ぐとみられる。
承認される見通しの第一三共製のワクチンは「ダイチロナ」で、米ファイザー製や米モデルナ製と同じくメッセンジャーRNAを利用している。第一三共は国内で既存のメッセンジャーRNAワクチンを2回接種済みの18歳以上の約5000人を対象に、最終段階の臨床試験(治験)を実施。その結果、既存のワクチンを3回打った場合と同等の効果が得られたとして、1月に接種3回目の追加用として製造販売承認を申請していた。
厚労省の部会は詳しい審議内容について「企業の知的財産などが開示されている」などとして非公開にしているが、厚労省関係者によると、第一三共製ワクチンの治験結果を他社の既存データと比較した結果、接種の有効性と安全性が評価された。この日同時に審議された昨年11月申請の塩野義製薬(大阪市中央区)製「組み換えタンパクワクチン」の「コブゴーズ」の承認了承は今回見送られ、継続審議になった。
国内では、2021年2月に米ファイザー製のワクチンが承認され、その後米モデルナ製や英アストラゼネカ製が相次いで承認され、同年春から国内の大規模接種が始まった。厚労省によると、1、2回目の接種は対象者の約81%に当たる1億人以上が、3回目は70%近くの8000万人以上が接種したが、4回目以降は接種率が下がり、6回目については1800万人程度にとどまっている。
政府は5月8日に新型コロナウイルス感染症の感染法上の位置付けを季節性インフルエンザと同じ5類に移行し、感染状況把握も定点医療機関からの報告という形になった。その後感染者は微増傾向が続き、厚労省が7月28日に公表した1定点医療機関当たりの感染者数は13.91人となり、専門家は「明らかに流行の第9波だ」と指摘している。こうした国内流行のウイルスの大半はオミクロン株派生型の「XBB」で、この型は免疫逃避力が従来のウイルスと比べて強いとされる。
このため政府はXBBによる流行に対応するため、米ファイザー製の2000万回分と米モデルナ製の500万回分を追加購入することで両社と合意。9月以降接種可能な人を対象に順次接種する方針だ。
今回承認見通しになった第一三共製ワクチンなどの国産ワクチンはXBBに対応していない。このため、国内でどのような形で使用するかは未定で、欧米の「周回遅れ」との厳しい指摘も出ている。国産ワクチンが遅れた原因については、流行前にワクチン生産に関する国の戦略や投資が不十分だったことや、海外製の実用化で治験の参加者集めに難航したことなどが挙げられている。
一方、政府は新型コロナがかなり国内流行した後、総額5000億円以上の国産促進支援策を打ち出した。今回ようやく国産初の承認につなげたことから「国民の命を守る安全保障の意味から国産ワクチンができた意義は大きい」と指摘する専門家も多い。
第一三共は2000年代後半からメッセンジャーRNA技術の開発を進め、その後メッセンジャーRNAワクチンの研究開発も開始したが、欧米企業に先行された。製薬企業は基本的には莫大な研究開発費と比べて採算を取る必要がある。
厚労省は主管官庁として、国産促進策のうち生産体制整備費などの形で第一三共などの製薬企業を支援してきた。そして21年6月に迅速なワクチン開発や生産に向け、大型予算を組む国家戦略(ワクチン開発・生産強化戦略)を閣議決定。文部科学省と日本医療研究開発機構は昨年8月、ワクチンや治療薬の開発に取り組む国内の研究拠点として東京大学など5大学を選定し、それぞれの拠点に5年間で最大77億円を支援すると発表している。
このように政府の支援策も増えているが、国産ワクチン生産が軌道に乗るまでには時間がかかりそうで、専門家は国産ワクチン普及のための長期的な戦略が必要と指摘している。
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