岡山大学は、悪性骨腫瘍などの小児や思春期・若年成人(AYA)世代に多く発症する“希少疾患”の患者に情報交換などの場を提供するため、2023年6月に遠隔地の患者や家族をつなげるメタバースを開発し、その空間の公開を開始したことを発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院医歯薬学域(医) 医療情報化診療支援技術開発講座の長谷井嬢准教授(整形外科)らの研究チームによるもの。なお現在は、遠隔地の患者同士の交流を実現するため、全国の拠点病院および各診療科との調整を行っており、2023年中に試験運用を開始する予定だとしている。
岡山大学病院では、2014年4月に西日本初のサルコーマ(肉腫)センターを開設し、診療を行っている。同センターで扱われる悪性骨腫瘍などは、小児・AYA世代に多く発症する希少がんであるため、患者の精神的なケアが非常に大切だ。しかしこれらの疾患は症例が希少であるために、患者同士の交流がほとんどなく、またその家族同士の交流の場も少ないことから、社会活動上の情報交換などの場が長年強く求められてきた。
こうした課題の解決策として、今回研究チームによって開発されたのが、メタバースを活用するという手法だ。
現実の地理的な制約を受けず、自由度の高いデザインで構築される仮想空間を用いれば、入院中の患者やその家族同士が自由に交流することが実現できる。これにより、同じ疾患と闘う子どもたちがお互いに励まし合い、経験や知識を共有することが可能になることで、患者自身の疾患や治療に対する前向きな態度を持つことが促され、精神的な負担の軽減が期待されるとしている。
またこのメタバースを通じて、患者の家族同士も交流することが可能になり、地域を問わず広く情報を共有できるという大きなメリットがあるといい、がんサバイバーからの情報共有や、疾患情報の講演なども企画しているという。
今回開発されたシステムでは、希少がん患者、特に小児・AYA世代の患者へのメンタルケアを提供することも可能になり、患者の精神的な健康状態の向上が期待され、治療に対する不安や恐怖心を和らげる効果も期待できるとのこと。そのほかにも、抗がん剤により妊孕性に影響が出ることなど、子どもたちにとってセンシティブな内容の話をする際には、アバターで参加できることで、直接顔を合わせるよりも質疑応答をしやすくなる効果なども期待されるとする。
2023年6月には、メタバース上の専用空間のデザインと空間構築が完了。メタバースの景観は、長期入院している患者が解放感を味わえるよう、自然あふれるデザインが採用された。さらに、メタバースならではの遊具の設置なども可能で、さまざまな体験を提供することも可能とする。身体的制約がある患者や長期入院を余儀なくされる子どもたちにとって、こうした仮想空間での活動は価値のある体験を提供できるという。
なお研究チームによると、現在は東北・関東・中部・近畿・中国四国の広い地域の基幹病院と連携し、導入を進めている最中だとしている。