パナソニック ホールディングスは7月21日、同社独自のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みである「PX(Panasonic Transformation)」についての合同取材に応じ、同社執行役員 グループCIOの玉置肇氏は、2022年度からの変化点や新たなフェーズに入ったPXの重要な要となる「7つの原則」などについて解説を行った。

  • パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCIOの玉置肇氏

    パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCIOの玉置肇氏(提供:パナソニック)

PXとは、パナソニックグループ独自のDXへの取り組み「Panasonic Transformation」の略語であり、ITシステムや経営基盤強化のための重要なプロジェクトとして進められている。

昨年度、DXではなくわざわざPXと呼ぶ理由を「ITだけに留まらず、パナソニックグループ全体を変えていくという意味を込めているから」だと語っていた玉置氏。今年度も、あくまでPXは「企業変革のフレームワーク」という位置付けであることを改めて強調した。

DXのプログラムは世の中で多く実行されているが、その多くは2年目、3年目となると勢いがなくなり、社員に浸透しないまま終わるケースもあるという。その原因は情報システムの変革にばかり注力してしまうからだと同氏は指摘し、「情報システムだけを変えるのは“なんちゃってDX”。新しいデジタル技術を社内に取り入れるだけではなく、意思決定や業務のプロセス、ステークホルダーの方々との関係性、企業風土などすべてを変革していく必要がある」と述べた。

そこで、パナソニックグループは全役員が集結し2日間に渡るグループ経営会議にてPXの徹底討論を実施。そこで決められたのが、従業員への約束とする「7つの原則」だとする。

「経営幹部が集まりITの話をしたことがなかった会社であるため、話し合ってもまとまらないだろうと思いドラフトを用意していた。だが、この7つの中に私が書いたドラフトは1文字も残っていない。」と語る玉置氏。

  • 7つの原則について

    7つの原則について(提供:パナソニック)

というのも、この7つの原則には、「IT」「デジタル」という言葉が使われていないのだ。玉置氏は、情報システムに偏らないPXらしい原則になったとし「すごくいいなと思っており、非常に気に入っている」と話した。

この制定された7つの原則に対しては、会議の終了時点で、会議に参加した経営幹部全員が署名を実施。グループ全体のアジェンダ、そして経営幹部も含めた社員全員の活動として位置づけられたとする。また、署名されたサインは大阪・門真のパナソニックホールディングス本社にある同社 グループCEOの楠見雄規氏の部屋に置かれているとのことである。

  • 7つの原則に向けた経営幹部全員のサイン

    7つの原則に向けた経営幹部全員のサイン(提供:パナソニック)

また、7つの原則の7番目にある「現場も含めたグループ内で、データ・テクノロジーを利活用できる人材を増やし支援する」から派生しパナソニック内で「ChatGPT」を導入したことにも言及。「PX-AI」として、7月から一部の地域を除き海外の拠点でも使用しているという。

玉置氏は、「以前だったら情報漏洩の問題やクラウド申請などの問題から、導入にはもっと時間がかかったかもしれない。しかし、事故は想定内。リスクをおそれず失敗からみんなで学びやっていこうという風土をつくっている」と述べ、スピード感をもって今後も挑戦していく姿勢をみせた。

社内情報の取り扱いに関しても社内モニターを行いながら解禁していくことで、利用速度は上昇。現在のバージョンは3.5だが、今後GPT-4にアップデートするとしている。さらに、製品やサービスにも生成AIを活用していくとするほか、活用ノウハウの共有や教育なども進めていきたいとした。

  • 「PX-AI」を利用開始し生産性が向上したという

    「PX-AI」を利用開始し生産性が向上したという(提供:パナソニック)

PXを導入して以降、目に見えた成果がでてきたともする。その一例としてパスワードを毎月変えるというポリシーから、一度入れたら変える必要のないパスワードポリシーに変更されたことも指摘する。

パスワードを毎月変える仕組みは、複雑なパスワードを毎月考えるのが難しいため、簡単なパスワードにしてしまいやすくリスクが大きくなる。玉置氏はこのパスワードポリシーを変えようと3年間言い続けてきたが、セキュリティの仕組みを1から変えなければならないため、なかなか実現に至らなかったという。しかし、セキュリティチームの奮闘により、このたび一度入れたら変える必要のないパスワードへの変更を実現。複雑なパスワードに加えて顔認証も導入することでセキュリティを担保したという。玉置氏はこの取り組みに対して「小さいことだが、社員が受けている恩恵は大きいだろう」と述べていた。

さらに、長期戦になりやすいデータ基盤の構築に関しても「10年かけていると経営陣も変わってしまうし、社員も投資家も飽きてきてしまう。そのため、2~3年で成果をだせるようにしたい」とし、パナソニックグループが目指す『幸せの、チカラに。』へ帰着するようPXを推進する姿勢を示した。