名古屋大学(名大)は7月27日、生物も利用する「コレステリック液晶」(CLC)を、数μmのサイズで粒径の揃った球状の粒子に加工する方法を開発したことを発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科のヒ・ジャレイ大学院生、同・竹岡敬和准教授らの研究チームによるもの。詳細は、光と物質の相互作用に焦点を当てた材料科学に関する学術誌「Advanced Optical Materials」に掲載された。
コレステロールの誘導体が液晶構造を取っていたことがその名の由来であるCLCは、1つの面内で分子は一定方向に配向しているが、隣接する面内では分子配向軸にねじれがあり、その結果として全体としては面の垂直軸の周りに配向方向が螺旋構造を取ることを特徴とする。螺旋のピッチが可視光の波長と同程度の場合、CLCの薄膜は可視光の特定の波長の光をブラッグ反射(何層もの薄膜が反射することを足し合わせた反射効果)することで、面偏光性の構造色を示す。この性質は、鮮やかな色を見せる昆虫の羽など、自然界でも見られることが知られている。
CLCはさまざまな色の発色が可能なことから、電子ペーパーなどのディスプレイ用材料としても注目を集めている。しかし、従来の人工CLC材料が発する色は、見る方向によって反射する光の波長が異なるために、色が変わってしまうことが課題だった。それに対し、CLCを幾何学的に等方性の球状の粒子にすると、発色する色の角度依存性を軽減できることから、球状CLC粒子が注目されている。
これまでは、マイクロ流路を用いることで、粒径100μmサイズで粒径の揃った球状CLC粒子の作成が実現されていた。しかし、球状CLC粒子を印刷用の顔料などに用いる場合には、そのサイズをさらに小さくする必要があり、印刷に適切なサイズである数μmのCLC粒子は、従来法では得ることができなかったという。そこで研究チームは今回、適切な混合溶媒を利用した分散重合により、従来のインクジェット用顔料と同じくらいのサイズである数μmで粒径の揃った球状CLC粒子を調製する方法を開発したとする。
数μmの球状CLC粒子は、粒子の曲率によってCLCのピッチが変化する。そのため、球状CLC粒子を単分散球にすることで、粒子サイズに応じてさまざまな色を発色させることに成功したという。また、球状CLC粒子を、シリコーンの一種で耐熱性や撥水性に優れる高分子「ポリジメチルシロキサン」(PDMS)で覆うことにより、球状CLC粒子の発色性と熱安定性を向上させられることも確認されたとしている。
さらに研究チームによると、偽造防止用QRコードの作成に、球状CLC粒子が示す円偏光性の構造色が利用できることも確認できたとのこと。球状CLC粒子の円偏光性構造色と市販の顔料を組み合わせることで、特定の円偏光板の下でしか表示できない偽造防止用QRコードとして利用できることがわかったという。
研究チームは、今回の研究で得られた球状CLC粒子の開発により、従来の色材とは異なる構造色の機能が低コストで実現し、新しい可能性を与えるだろうと考えられるとしている。