局地的な豪雨をもたらす「線状降水帯」の予測精度を向上させるため、気象庁が理化学研究所(理研)のスーパーコンピューター「富岳」を使った予測モデルのシミュレーション実験を全国規模で実施している。実験はこれまで西日本を対象にしていたが、6月8日からは対象を東日本や北日本も含めた全国に拡大。実際の気象データを使って10月末まで実験を続け、地域ごとの線状降水帯発生予測システムの実現を目指すという。
線状降水帯は、毎年のように発生している豪雨災害の要因の一つとされ、2015年の関東・東北豪雨や18年の西日本豪雨などでも発生した。今年も7月10日に福岡、佐賀、大分3県など各地で頻発し、河川氾濫や土砂崩れが相次いだ。今後も全国で発生して豪雨をもたらすと懸念されている。
気象庁は線状降水帯に関して2021年から発生を伝える「顕著な大雨に関する気象情報」の、また昨年6月からは発生可能性を約12~6時間前に伝える「半日前予測」の運用をそれぞれ始めた。しかし、特に半日前予測については発生予測の情報が出ないまま発生する「見逃し」例が多く、豪雨被害を減らすために予測精度の向上が急務になっている。
半日前予測の対象は現在広域ブロック単位だが、気象庁は今後は都道府県単位に、最終的には市町村単位での予測発表を目標にしている。気象に関する数値予報モデルでは水平解像度、つまり気象観測データの解析対象範囲が小さいほど、より詳細な大気の状態や現象を予報することが可能になる。例えば「水平解像度2キロが1キロになる」とは、解析対象範囲が2キロ四方から1キロ四方に細分化されることを意味する。
6月から始まり10月末まで続ける富岳を使った地域ごとの発生シミュレーション実験では、発生事例が少ない東北地方などでも水平解像度2キロから1キロに細分化し、予報時間も18時間まで延ばす局地予測モデルを検証する。そして高精度の線状降水帯予測につながるシステムの完成を目指すという。
気象庁は豪雨や台風被害を減らすため、豪雨や台風の予測、予報情報精度を大幅に向上することなどを目的に「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」を18年に策定した。この計画には多くの国立研究機関や大学も参加し、同庁は計画の一環として今年3月から「線状降水帯予測スーパーコンピュータ」の稼働を始めた。
線状降水帯予測スパコンは「富岳」の技術を活用した商用スパコン2系統で構成している。1系統当たり浮動小数点演算を毎秒1京5500兆回こなす。計算能力はそれまでのスパコンの2倍になった。「富岳」のシミュレーションは研究開発目的だが、線状降水帯予測スパコンは実際の天気予報に適用している。
気象庁によると、現在線状降水帯の半日前予測には「水平解像度5キロ」の数値予報モデルを使っているが、23年度中に現状より狭い範囲で予測ができる「同2キロ」の同モデルで予測が可能になるという。25年度末までには水平解像度をさらに細かく1キロに細かくする計画だ。
線状降水帯は次々と発生した積乱雲が線状に列をなし、同じエリアに数時間にわたって通過、停滞して豪雨をもたらす。強い雨域は長さ50~300キロ程度、幅20~50キロ程度で、海から流れ込む水蒸気量などが複雑に関係して形成されるが、発生メカニズムはまだ未解明な点が多い。
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