東京大学(東大)は7月25日、加齢に伴ってニューロン(神経細胞)の核のダイナミクスが低下し、硬くなることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大 定量生命科学研究所(IQB)の岸雄介准教授、東大大学院 薬学系研究科のタニタ・フレイ大学院生(研究当時)、同・後藤由季子教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生物の老化に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Aging Cell」に掲載された。
ニューロンは脳内で情報伝達の中核を担っており、さまざまな外界からの刺激に応じてその性質を変化させる可塑性を持つことで知られる。この可塑性は加齢と共に低下し、そのために老化した脳は機能が低下してしまう。つまりそのメカニズムを理解することは、加齢性神経疾患の発症原因の治療戦略を立てるために重要なものとなる。
そして近年になって、さまざまな細胞で核の形態が加齢に伴っていびつになることがわかってきたという。現在では、核の形態を指標として細胞の老化具合を評価するような研究も進んでいるが、老化細胞において核の形態がいびつになるメカニズムや意義はあまり解明されていなかった。
ニューロンの核の形態については、これまでに、通常の状態で外界から刺激を受けると凹むこと、またパーキンソン病やハンチントン病のような神経変性疾患の患者でいびつになることが理解されていた。一方で、自然老化の過程で核の形態が変化するのかどうかについては、わかっていなかったとする。そこで研究チームは今回、まず外界から刺激を受けた時のニューロンの核が形態変化する過程を、生体脳タイムラプスイメージング手法にて観察することを目指したという。
始めに、ニューロンにおいて核の形態を可視化できるマウスが作製された。その後、大脳皮質視覚野のニューロンを観察するための顕微鏡用窓を取り付け、マウスの眼に光を当てることでニューロンの生理的な刺激を行うことに成功したとする。その結果、およそ2か月齡の若齢マウスでは、光照射後10分程度で核が徐々に凹んでいくことが観察された。
研究チームは次に、2年齢以上の老齢マウスを用いて同様の実験を実施したとのこと。すると、老齢マウスではそもそも刺激を行う前から凹んだ核が多いこと、そして光照射を行っても核の形態がほとんど変化しないことが判明したとする。この結果から、ニューロンでも加齢に伴って核がいびつな形となり、さらに形態変化しにくくなることが解明されたとしている。