日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)と日本電信電話(NTT)、東日本電信電話(NTT東日本)は7月23日、IOWN構想の実現に向けた初めての商用サービスであるオールフォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network/APN) IOWN1.0を活用した実証を「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2023 powered by docomo」にて実施した。

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想。

また、APN IOWN1.0とは、2023年3月に提供を開始した、通信ネットワークの全区間で光波長を専有するオールフォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network)サービス。

  • 「Jリーグワールドチャレンジ」でAPN IOWN1.0を実証

放送業界においては、新しいライブ中継番組制作フローとして、中継現場から放送局にすべてのカメラ映像など複数の番組素材を同時にネットワーク伝送し、放送局で制作を行うリモートプロダクションが注目されている。

これによって、各種機材や人員の現場配置を効率化することや、映像の多角化など番組制作における付加価値の向上が期待できる。一方で、大容量、低遅延かつジッタ(通信のゆらぎ)が少ない高機能なネットワークが求められることから十分な普及に至っていない。

またNTTグループは、新しい視聴体験やエンターテイメント体験を提供する取り組みを進めてきたが、スポーツ観戦におけるXR体験をより臨場感のあるものするには、低遅延かつ4K・8Kといった大容量映像をリアルタイムで複数映像を同時に伝送することが求められている。

今回の実証は、これらの課題の解決に向けて実施されたものだ。具体的には、国立競技場で開催されたJクラブとヨーロッパの強豪クラブが対戦する「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2023 powered by docomo」において、APN IOWN1.0の特徴である「高速・大容量」「低遅延・ゆらぎゼロ」を生かし、会場の映像を別拠点に伝送して編集を実施するリモートプロダクションと、大容量映像を伝送して離れた場所でも臨場感のある8KVR映像の視聴を可能とするデモンストレーションが実施された。

映像伝送の天敵「ゆらぎ」を減らせるAPN IOWN1.0

IOWN構想は、ネットワークから端末までエンド-エンドでの光技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、実世界とデジタル世界のかけ合わせによる未来予測の「デジタルツイン・コンピューティング(DTC)」、そしてあらゆるものをつなぎその制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」という3つの要素で構成される。

「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」は、ネットワークから端末までをフォトニクス(光)ベースの技術で構成し、以前あるエレクトロニクス(電気)ベースの技術では困難であった「低消費電力」「大容量・高品質」「低遅延」の伝送を実現しようとするもの。特に「低遅延」は、映像伝送において天敵ともいえる「ゆらぎ(ジッタ)」を減らせるので、通信の品質が高く保てるというメリットがある。

今回の実証は、国立競技場と秋葉原に設営されたリモートプロダクション(リモプロ)会場を、APN IOWN1.0(100Gbps)回線×2本でつなぎ、サッカーの競技会場を4本の放送グレード4Kカムコーダにて撮影、遠隔にあるリモプロ会場で編集し、その映像を国立へ戻す。また、8K-VRカメラ2台をピッチに設置し、切り替えることで自由に視点を変えて試合観戦を楽しめる仕組みが用意された。

国立競技場から伝送される映像は、4K60p(非圧縮)×4と8KVR(圧縮)×2。さらに、オペレーション用のフルHD映像と回線の遅延を測定するデータをAPN IOWN1.0で転送するが、時分割方式を採用することで帯域が独立しているため、データ転送の帯域が圧迫した場合でも、映像転送に影響はないという。なお、100Gbpsの帯域は100%専有の帯域保証型となっている。

遅延を回避、APN IOWN1.0を活用したリモプロ現場

リモプロ会場では、国立競技場から送られた映像のスイッチングや編集を行い、配信されている映像との比較などが行われた。

  • APN IOWN1.0の回線がつながれた終端装置「OTU4」と光信号の受信・変換や遅延の可視化・調整を行う端末装置「OTN Anywhere」

  • 実測データでも5nsという非常にわずかなゆらぎ(ジッタ)しか計測されない

  • 国立競技場からリアルタイムで送られた映像の編集やスイッチングを行う

  • 実際に配信されている映像(右)と比較。遅延がないだけでなく、エンコードなどの処理がない分、ほんのわずかであるが早めに映し出される

また、オペレーション用のフルHD映像が遅延なく送られている様子の実演では、会話だけでなくじゃんけんなどで遅延のないことが示された。

  • 中継現場ともリアルタイムでオペレーションが可能

XR体験をより臨場感のあるものするため、自由視点切替の目的で多地点にVRカメラを設置することがあるが、従来の回線では、帯域の都合で8K×1chなど少ないチャンネル数しか配信できない状況にあった。

これに対し、APN IOWN1.0の回線では、アングル違いのVR映像を多数高画質のまま伝送することが可能。今回の実証では2chの圧縮映像でテストされたが、将来的にはチャンネル数を増やすことで、より高い臨場感を味わえるようになるという。

  • APN IOWN1.0を活用することで高画質リアルタイム8KVR配信も楽しめる

今回の実証では、放送信号のほかに、8KVRの映像やオペレーション用の音声や信号を同時に伝送できるだけでなく、放送の現場で求められる低遅延性を実演。また、多地点をつなぐ場合、遅延ゆらぎなしの環境を築くために地点ごとで設置されるPTPを1台のみで運用できる点もAPN IOWN1.0ならではの特徴となっている。