新型コロナウイルス禍において、若年層(10~24歳)の女性の自殺数が他の世代や男性に比べて増加しているとの調査結果を、横浜市立大学などのグループがまとめた。10代前半といった学齢世代でも増えており、経済苦よりも対面で直接会話する機会の喪失などが絡んでいる可能性を指摘。次のパンデミックに備え、性差や世代差に着目した自殺予防対策が求められるとしている。
横浜市立大学附属病院化学療法センターの堀田信之センター長(呼吸器内科)らのグループは、厚生労働省の人口動態調査をもとに、2012年7月から2022年6月の10年間に死因が自殺と断定された人数を性別、世代別に分けて調べた。
若年層に着目し、コロナ禍前後の2019年~2021年の1年ごとの自殺者数をみると、男児・男性は順に1178人、1290人、1260人とあまり大差がなかった。一方、女児・女性は512人、713人、784人と増加傾向にあった。10~14歳、15~19歳、20~24歳のいずれの階層においても、男児・男性はコロナ禍前後で自殺者数はほぼ変わらなかったのに対し、女児・女性は増加率が高かった。
堀田センター長らの先行研究では、新型コロナウイルスが蔓延していた2020年4月~2021年3月は20代~30代の女性が突出して自殺者の増加率が高かった。非正規雇用など経済的に不安定な人がこの世代の女性に多いことから「失業などの経済的影響を受けやすく、自殺に至った」と結論づけていた。
しかし、今回のデータを解析していくうちに20~24歳の階層のみならず、10~14歳、15~19歳、70代でも女児・女性の自殺者が顕著に増えていることに気がついた。これらの年齢は学齢期またはリタイア期であることから、経済的影響ではない他の要素が影響しているのではないかと推察。他の研究において、自殺する女性は未遂が多いのに対し、男性では既遂が多いなど自殺には性差があることが知られていることも踏まえ分析を進めた。
堀田センター長が日頃の臨床で入院患者を観察していると、男性の大部屋ではカーテンを閉め切って1人で新聞を読んだり、スマートフォンを見たりしているのに対し、女性の大部屋ではカーテンを開けておしゃべりに講じている。このことから、男性はコロナ禍でも通常の生活と大差なく、大きな孤独を感じなかったのに対し、女性は「自宅自粛の呼びかけにより、社交の場が減り会話をする機会がなくなった。そのため心理的な影響を大きく受けたのではないか。SNSでつながっても、直接の対面には及ばなかったのだろう」と考えている。
今回の結果を基に、堀田センター長は「コロナ禍のようなパンデミックでは、男性と女性で自殺対策を変えていく必要があるだろう。以前、救急の現場にいたこともあり、自殺を減らしたいという気持ちが強い。次の感染症に備えて、性別だけでなく年代ごとに応じた自殺対策が求められそうだ」と話す。新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に移行したため、「コロナ明け」の1年後の統計も研究する予定だという。
成果は英医学誌「ランセット・サイカイアトリー」電子版に6月22日に掲載され、横浜市立大などが同日発表した。
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