長崎大学は7月21日、抗マラリア薬開発に資する新たな遺伝子改変熱帯熱マラリア原虫を創出し、レポータータンパク質「NanoLuc」由来のシグナルを利用することで、ヒト・蚊2種類の宿主中での複数のステージに効果がある新たな抗マラリア化合物の薬効を評価できることを実証したと発表した。
同成果は、長崎大 熱帯医学研究所 シオノギグローバル感染症連携部門の宮崎真也助教、同・宮崎幸子研究員(現・長崎大 熱帯医学研究所 原虫学分野 助教)、同・稲岡健ダニエル准教授に加え、オランダ・ライデン大学、オランダ・TropIQ、フランス・ソルボンヌ大学、大阪大学大学院 薬学研究科の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載された。
マラリアは、アフリカや東南アジアなどの熱帯地域で、蚊によって媒介されるPlasmodium属の原虫により引き起こされ、甚大な数の感染者・死者を出すことで知られる原虫感染症だ。マラリアをヒトに引き起こすPlasmodium属原虫は複数種が存在するが、ヒトに最も重篤な症状を引き起こすのが熱帯熱マラリア原虫である。マラリア原虫はヒト赤血球の中で増殖し、発熱、悪寒といったマラリアの症状が引き起こされることが知られている(赤内期)。
一方で、ヒト赤血球内の一部の原虫は「ガメトサイト期」と呼ばれるステージへと変化し、蚊の吸血により再び蚊の体内へと移行。蚊の体内で増殖した原虫は「スポロゾイト」ステージへと変化し、再び蚊の刺咬によりヒト体内へと侵入する。感染したスポロゾイトは、まずヒトの肝臓に感染し、そこでの潜伏期を経た後にヒトの赤血球へと感染する。このようにマラリア原虫は、ヒトと蚊の2つの宿主に感染するための非常に巧みな寄生戦略を有しているという。
マラリアの治療ではこれまで、赤血球内のマラリア原虫を殺すための治療薬が使用されてきた。しかし、既存の抗マラリア薬に対する耐性が出現していることから、新たな作用機序を持つ抗マラリア薬の開発が望まれているとする。
また、マラリア原虫は蚊により媒介されるため、蚊の体内への伝播を阻止する薬剤(伝播阻止薬)がマラリアコントロールに重要であるとも考えられている。さらに、蚊の刺咬によりヒトに感染した後に肝臓内に潜伏する期間があるため、肝臓内で原虫を殺すことができれば、マラリア発症を予防することが可能だとする。つまり、複数のステージに効果がある抗マラリア薬は、治療薬、予防薬、伝播阻止薬いずれの効果も示し、マラリアのコントロールに貢献することが期待されている。