神戸大学は7月21日、AGCと共同開発した「フッ素化カーボネート」を原料として、イソシアネート化合物を使わない新しいポリウレタン合成法の開発に成功したと発表した。

  • 今回の研究の概要。

    今回の研究の概要。(出所:神戸大Webサイト)

同成果は、神戸大大学院 理学研究科の細川流石氏(研究当時)、同・津田明彦准教授、AGCの鈴木千登士氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本化学会が刊行する化学に関する全般を扱う欧文学術誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」に掲載された。

クッション、繊維、断熱材、塗料、接着剤や自動車部品などさまざまな用途で利用されるポリウレタンは、高い弾性や耐摩耗性、耐久性などの性質を持つ、現代社会を支える重要なポリマー材料の1つだ。現在、その大半はジイソシアネートとジオールの反応によって合成されているが、イソシアネート化合物は高い毒性を持つことで知られる。そのため、イソシアネート化合物を使わない新しいポリウレタン合成法の研究が活発化しているという。しかし、現在開発されている合成法の大半は汎用性が低く、環境負荷が大きい上に、得られるポリウレタンの品質が低い、コストが高いなどの多くの課題があるため、実用化には至っていなかったとする。

  • ポリウレタンの合成方法。

    ポリウレタンの合成方法。(出所:神戸大Webサイト)

そのような背景の下、「光オンデマンド有機合成法」を擁する津田准教授の研究チームと、フッ素化合物やポリウレタン原料を製造するAGCは、産学連携による新しいポリウレタン合成法や機能性材料の開発を基礎として、新しい学問分野と産業分野の創造に取り組んできたとする。

今回の研究では、フッ素化アルコールとクロロホルムから光オンデマンド合成法で合成したフッ素化カーボネートとジオールの縮合反応により、さまざまな「フッ素化ビスカーボネート」(BFBC)の合成に成功したという。なおBFBCは得られたサンプル溶液を減圧下で乾燥させるだけで精製可能で、容易な操作で目的物を定量的に得ることができたとしている。

  • BFBCの合成。

    BFBCの合成。(出所:神戸大Webサイト)

さらに、得られたBFBCとジアミンの重縮合反応により、平均分子量が1万を越える「非イソシアネートポリウレタン」(NIPU)の合成に成功したとする。無溶媒で合成されたNIPUは、120℃以上の加熱でわずかに黄色く着色したが、100℃以下ではそのような着色は見られなかったという。一方、溶媒を用いればより低い温度での重合が可能となり、高分子量の無着色NIPUが高収率で得られたともする。

そして、BFBCとジアミンをハードセグメントとソフトセグメントとして適切に組み合わせることで、高い弾力性を持つ無色透明のポリウレタンフィルムを形成させることも実現された。加えて、無色透明のオイル状の新規フッ素化ポリウレタンの合成にも成功したとのことだ。

研究チームによると、今回の反応は、これまでに報告されているNIPUの合成法と比較して、汎用なものから特殊なものまで、多種多様なポリウレタンを合成できる以下の利点を持つという。

  1. イソシアネート法によるポリウレタンの工業生産に用いられる一般的なジオールやジアミン、もしくはオリジナルに合成したそれらを用いて、NIPUを任意に合成可能
  2. 合成時に有機塩基や金属触媒、溶媒を使用しない今回の合成法によって、それらをまったく含まない高品質なNIPUを得ることが可能
  3. 平均分子量や末端官能基は、BFBCとジアミンの混合比により制御可能で、同方法で調製した分子量1万程度のNIPUは、より大きなポリマーやネットワークポリマーを合成するためのプレポリマーとして利用できる
  4. 試薬、溶媒、除去されたフルオロアルキルアルコールは原理的に回収が可能であり、NIPU合成に再利用することができる
  • 研究における非NIPUの合成例。

    研究における非NIPUの合成例。(出所:神戸大Webサイト)

イソシアネートを用いる現行のポリウレタン合成法は、コスト面での優位性を持つ。それに対して今回新たに開発されたフッ素化カーボネートとフッ素化ビスカーボネートを用いるNIPU合成法は、現行法のいくつかを代替できる可能性を持ち、さらに現行法では合成することができない機能性ポリウレタンを創出できる新たな実用的合成方法であることを特徴とする。そして実用化に向けて、産学の両視点から、現在さらなる研究開発に取り組んでいるとしている。