宇都宮大学(宇大)は7月20日、生分解性プラスチックなどに添加される「カルボジイミド化合物」がミジンコに比較的強い毒性を示すことを発見したと発表した。
同成果は、宇大 バイオサイエンス教育研究センターの松本惠特任技術職員、同・伊東春佳大学院生、同・宮川一志准教授、東京工業大学 物質理工学院の佐藤浩太郎教授、京都大学大学院 工学研究科の沼田圭司教授(理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、薬物および化学物質の毒性に関する全般を扱う学術誌「Journal of Applied Toxicology」に掲載された。
日本近海を含め、世界中の海洋においてマイクロプラスチックによる汚染が問題となって久しい。この問題は自然界の生物への影響だけでなく、食物連鎖によって濃縮される結果、魚介類を食するヒトへの影響も懸念されている。プラスチックは自然界で完全に分解するのに非常に時間がかかることがわかっており、条件によっては数百年はかかるともいわれる。そのため、自然界に放出された際、環境に対してどのような影響を与えるのかが大きく注目されている。
こうした環境汚染問題を回避するため、近年では、材料としての機能性に加えて、自然環境下で完全に分解・無毒化される生分解性プラスチックの研究開発が活発化している。しかし、生分解性プラスチックは最終的に無毒化されるとはいえ、それでも環境中では数か月もの時間を要し、その分解過程においてはさまざまな化学物質が生じてしまう。そして残念なことに、それらが生物に及ぼす影響については、これまでほとんど考慮されてこなかったとする。
そこで研究チームは今回、代表的な生分解性プラスチックである「ポリカプロラクトン」(PCL)を対象として、その分解過程で生じると予想される物質群が生物にもたらす影響を、ミジンコの一種である「オオミジンコ」を用いて解析したという。なお、ミジンコは湖沼の食物連鎖の中核に位置する生物であり、生態系の維持に必要不可欠であるため、毒性試験の対象種としてよく用いられている生物だ。
実験の結果、未分解のPCL粒子は、高濃度で曝露するとミジンコの消化管に詰まり生存率を低下させたとする。ただし、PCLの分解産物であり分子量が小さいオリゴマーやモノマーであれば、そのような影響は見られなかったという。研究チームはこれらの結果について、生分解性プラスチックの有効性を示唆するとしている。
続いて、PCLを含む高分子化合物を工業的に生産する際にその安定性を高めるために添加されるカルボジイミド化合物の毒性について、同様にミジンコを用いた調査が行われた。すると、0.1mg/L~1mg/Lの濃度でほとんどのミジンコを死滅させるという、比較的強い毒性が示されたとする。
研究チームはこの結果から、カルボジイミド化合物が添加された高分子材料が環境中で分解された際に、流出したカルボジイミド化合物が周囲の生物に悪影響を与える可能性は否定できないとする。また今後、生分解性プラスチックの安全性を評価する際には、添加物の毒性や分解時の流出量も調べる必要があるとしている。