近畿大学(近大)は7月18日、大阪大学(阪大)、京都府立医科大学、東京工業大学(東工大)と共同で、神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭型認知症(FTD)の原因となる異常なポリペプチドの合成を、タンパク質「FUS」が制御することを発表。また、FUSを含む一群のタンパク質がALSやFTDに対して治療効果をもたらすことを、疾患モデルショウジョウバエを用いて明らかにしたことも併せて発表した。

  • 研究チームは異常なリピートRNAによる異常ポリペプチドの合成を抑制することで治療効果を得ることを目指したという。

    研究チームは異常なリピートRNAによる異常ポリペプチドの合成を抑制することで治療効果を得ることを目指したという。(出所:近畿大学)

同発表に際し、近大は7月13日に記者説明会をオンラインで開催。近大 医学部 内科学教室(脳神経内科部門)の永井義隆主任教授と、同・藤野雄三特別研究派遣学生(研究当時、現・京都府立医科大 医学研究科 脳神経内科学 大学院生)が出席し、発表内容に関する説明を行った。

今回の研究成果は、永井義隆主任教授と藤野雄三氏に加え、近大 医学部 内科学教室(脳神経内科部門)の上山盛夫研究員(研究当時)、阪大大学院 医学系研究科 神経内科学の望月秀樹教授、京都府立医科大大学院 医学研究科 脳神経内科学の水野敏樹特任教授、東工大 科学技術創製研究院 細胞制御工学研究センターの田口英樹教授らの研究チームによるもの。研究の詳細は、2023年7月18日に生物学領域の国際的な学術誌「eLife」にオンライン掲載された。

ALSは、全身の運動神経系が徐々に変性することで全身の筋肉が急速に衰えていく神経疾患で、国内に約1万人、世界では20万人以上の患者がいるとされ、現在その数は増加傾向にあるという。

またFTDは、大脳の前頭葉・側頭葉が神経変性を起こすことで、人格や行動の異常や言語障害などを発症する。同疾患は、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症に次いで3番目に多い変性性認知症で、国内には約1万2000人の患者がいるとされる。

ともに神経変性を要因として発症する両疾患は、発症から平均10年以内で死亡に至る。しかしどちらも原因の解明は十分でなく、ALSは早期にのみ適応する治療法が存在するものの効果は限定的で、FTDの根本的な治療薬はないなど、明確な治療法は確立されていない。

両疾患においては家族性のものも存在しており、その原因として、オートファジーに関与するC9orf72遺伝子の変異が報告されている。同遺伝子は領域内に「GGGGCC」というDNA6塩基(Gはグアニン、Cはシトシン)が複数回繰り返された配列が存在しており、通常は2回~23回程度の繰り返しが見られる。しかし家族性ALS・FTDの患者では、遺伝子の変異により繰り返しの数が700回~1600回と異常に長く連なっているという。

これらの疾患は、こうした異常に長いリピート配列を持つC9orf72遺伝子から転写された異常なリピートRNAが翻訳されることで産生される、3種類の異常なポリペプチドが神経変性を引き起こすことで発症すると考えられている。