東北大学は7月19日、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)に高導電性を有する単層カーボンナノチューブ(CNT)を混合することで、新たな導電性複合セルロース繊維の開発に成功したことを発表した。

同成果は、東北大 流体科学研究所の高奈秀匡教授、米・ワシントン大学のアンソニー・B・ディキアラ准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。

CNFは、木材繊維を機械的・化学的に解きほぐすことで生成される、高結晶性の超微細繊維であり、中でもTEMPO触媒酸化により得られたCNFは、ファイバー間の高密度の電荷反発と浸透圧効果により、直径数10nm程度のナノファイバー化が可能となるといった特長があるという。

近年、CNFの研究として、軽量かつ高強度な上に、高い導電性や熱伝導性などの優れた機械的特性を有するCNTを複合化することで実現する、導電性セルロース複合繊維の開発が注目を集めるようになっているというが、導電性セルロース複合繊維の開発では、導電性と材料強度がトレードオフの関係にあることが課題となっていたという。導電性を向上させるためには、CNTの含有量を増やす必要があるが、CNTの含有量が増えると、今度はCNF間の結合が弱められるために材料強度が低下してしまうためで、今回、研究チームはそうした問題を解決することを目的に、界面活性剤や化学薬品を用いずに単層CNTとCNFの安定分散媒を得る手法を検討することにしたとする。

結果として、新たに開発された手法を活用することで、安定分散媒を得ることに成功したほか、その高い安定分散性は、CNFがCNTに巻き付いていることで得られることも確認したとする。また、電場と流れ場による独自の配向制御法により、機能性複合繊維の高強度化にも成功したともしており、CNTを混合することで材料強度が低下してしまうという課題を解決することができたとしている。

  • 高強度導電性複合繊維が創製

    交流電場と流れ場によりCNTとCNFからなる微細繊維を軸方向に配向させることで、高強度導電性複合繊維が創製された (出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームによると、今回開発された手法を用いることで、50%という高いCNT含有量においても、材料強度を低下させることなく機能性複合繊維を創製することが可能で、そうして創製された複合繊維の強度は、従来技術よりも高強度・高靭性であり、優れた材料特性を示すことも確認したとする。

  • 交流電場を印加することでCNT複合セルロース繊維が高強度化

    交流電場を印加することでCNT複合セルロース繊維が高強度化することが確認された (出所:東北大プレスリリースPDF)

また今回の研究を通じて、電場によってCNTがクラスター化するため、より高い導電率を有する機能性複合繊維を得られることも判明したともしており、この機能を活用することで、セルロースを利用した従来の高感度水分センサに対して約8倍の検出感度を実現することにも成功したともしている。

  • 今回の技術により創製したCNT複合セルロース繊維の材料特性の位置付け

    今回の技術により創製したCNT複合セルロース繊維の材料特性の位置付け(従来法との比較)。従来法と比較して高い引張強度と弾性率を同時に得ることに成功している (出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームでは今回の成果について、高強度・軽量、低環境負荷というセルロースの特性を生かした超高感度水分センサや柔軟性を有する新たなエレクトロデバイス、エレクトロニクス材料への応用が期待されると説明している。

  • CNT複合セルロース繊維の電流-電圧特性

    CNT複合セルロース繊維の電流-電圧特性(CNT含有率50%)。100Vを印加して繊維を創製することで、より導電率が向上している (出所:東北大プレスリリースPDF)