なよろ市立天文台と北海道大学(北大)の両者は7月19日、北大の1.6mピリカ望遠鏡をはじめ、広島大学1.5mかなた望遠鏡、スペイン・カナリア諸島2.56m北欧光学望遠鏡を用いて、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」が拡張ミッションとしてフライバイ観測をする計画の小惑星「2001 CC21」の観測を実施したことを発表。

同観測により、その偏光特性がS型小惑星と一致することを明らかにするとともに、幾何アルベドは0.23、推定される大きさは約500mであり、組成も大きさも初代「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ」に似た天体であることが判明したと共同で発表した。

  • ピリカ望遠鏡で撮影された小惑星2001 CC21(2023年1月15日に撮影された)。

    ピリカ望遠鏡で撮影された小惑星2001 CC21(2023年1月15日に撮影された)。(出所:北大プレスリリースPDF)

同成果は、なよろ市立天文台の内藤博之業務係長、北大大学院 理学研究院の髙木聖子講師らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Letters」に掲載された。

小惑星リュウグウのサンプルを地球に届けたはやぶさ2は、現在拡張ミッションを遂行中だ。今後は小惑星「1998KY26」に向かって航行し、2031年にランデブーする予定だが、その前の2026年7月に2001 CC21の近傍をフライバイ観測する計画となっている。

研究チームによると、2001 CC21は反射スペクトルの波長依存性から「L型小惑星」である可能性が示唆されていたものの、その大きさや反射率などの特性はあまりわかっていなかったという。なおL型小惑星は、炭素質隕石の含有鉱物との関連性を示唆する研究報告はあるものの、組成がまだ明らかではなく比較的珍しい小惑星だ。

その2001 CC21は2023年3月下旬、地球~月間のおよそ50倍となる約1900万km(0.13天文単位)の距離まで接近しており、地上望遠鏡による観測でその特性を調査するチャンスが訪れたという。

小惑星表面の組成や反射率を調査するにあたり、偏光観測はとても有効な手法だ。光は、進行方向に垂直な面内で電場や磁場がさまざまな方向に振動しながら進む電磁波の一種であり、太陽光はさまざまな振動方向を持つ光の集合だ。それに対し、物質表面で反射した光は、特定方向の振動が強い一方で別方向の振動が弱くなるという“偏光”が生じる。この強弱の程度(偏光度)は、物質の種類や形状、大きさなどを反映するため、偏光度を測定することにより、天体表面の情報を得ることができるのである。特に、位相角(太陽-天体(小惑星)-観測者のなす角度)の日々の変化によって、偏光度がどのように変化するかが重要だとする。

研究チームは、ピリカ望遠鏡に搭載された可視光マルチスペクトル撮像観測装置などを用いて、2001 CC21の偏光観測を実施した結果、その偏光度の位相角依存性は、従来示唆されていたL型ではなく、S型小惑星と一致することがわかったとしている。

  • 小惑星のタイプと偏光特性の比較

    小惑星のタイプと偏光特性の比較。(今回の論文の【図2】を改変、イトカワのデータはCellino et al. 2005, Icarus, 179, 297より引用)。(出所:北大プレスリリースPDF)

また、幾何アルベド(位相角が0度の時において実際に観測される光と理想的に拡散反射された光の明るさの比)は0.23、推定される大きさは約500mであることもわかった。初代はやぶさが2005年に探査したイトカワもS型で、その大きさは535m×294m×209mと細長い形状をした小惑星だった。つまり、2001 CC21は、組成も大きさもイトカワに似た天体であることが明らかにされたのである。さらに、ハワイ3mNASA(米国航空宇宙局)赤外線望遠鏡を用いて実施された分光観測の結果も、2001 CC21がS型小惑星であることを示唆するものだったという。

これまで探査機が送り込まれた小惑星は10以上になるが、それぞれ大きさも異なれば、組成もS型・C型(リュウグウ)・B型(ベンヌ)など、多岐にわたる。そして大きさや組成が異なると、小惑星表面で起きている現象(たとえば地滑りや宇宙風化)も異なってくるとする。

2001 CC21とイトカワは組成もサイズも同等であり、その比較から小惑星表面で起きている現象の普遍性を調査することが可能になることが期待されるという。イトカワの表面には、がれきが集まったラブルパイル構造が見られ、宇宙風化を受けた暗い領域と、内部が露出した明るい領域が存在することなどが明らかにされている。これらの特徴がイトカワ特有なのか、それとも小型小惑星においては普遍的なのかについて、はやぶさ2が2001 CC21をフライバイ観測することで、解き明かされることが期待されるとしている。

  • 今回の偏光観測で使用された望遠鏡。左から北大の1.6mピリカ望遠鏡、広島大学の1.5mかなた望遠鏡、スペイン・カナリア諸島の2.56m北欧光学望遠鏡。

    今回の偏光観測で使用された望遠鏡。左から北大の1.6mピリカ望遠鏡、広島大学の1.5mかなた望遠鏡、スペイン・カナリア諸島の2.56m北欧光学望遠鏡。(c)左から北海道大学、広島大学、Magnus Gålfalk氏。(出所:北大プレスリリースPDF)