パーソル総合研究所は7月19日、 「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」の結果を発表した。これによると、企業理念や人事制度の浸透にはトップダウンの「暗室-伝達型」から現場の巻き込みとリアリティ重視の「共創-拡散型」への変化が鍵だという。

同調査は同社が4月4日~6日に、調査会社モニターを用いたインターネット定量調査により実施したものであり、調査対象は全国の20歳~59歳の男女・正規雇用就業者、有効回答者数は理念浸透セル(企業理念浸透について何らかの施策が行われている人)が1500人、制度浸透セル(過去5年以内に何らかの人事制度の変更があった人)が1500人、一般セル(条件無し)が1600人。

  • 浸透施策の捉え方 出典: パーソル総合研究所

  • 伝達型と拡散型の比較 出典: パーソル総合研究所

  • 伝達型と拡散型の過程 出典: パーソル総合研究所

企業理念と人事制度の浸透状況を見ると、企業理念について「内容を十分理解している」との回答は41.8%、「内容について同意できる」は44.5%だった。人事制度では、「内容を十分に理解している」は36.1%、「内容について同意できる」は33.8%だった。

  • 企業理念・人事鮮度の浸透状況 出典: パーソル総合研究所

理念・制度の浸透度は、企業の設立年数が古くなるほど低く、企業の規模が大きくなるほど高い。

  • 理念・制度の浸透度と企業の設立年数/企業規模 出典: パーソル総合研究所

企業の業績別で見たところ、業績の悪い企業の方が理念・制度共に浸透度が低い。

  • 理念・制度の浸透度と業績 出典: パーソル総合研究所

理念の浸透の影響度を見ると、個人のパフォーマンス、就業継続意向、ワーク・エンゲイジメントとのプラスの関係が見られるという。

  • 理念浸透の影響 出典: パーソル総合研究所

企業理念と人事制度の浸透要因に着目したところ、人事制度では、主たる人事制度(処遇・等級など)の変更は浸透しにくく、働き方関連の制度浸透は浸透しやすい傾向にあるとのこと。

  • 人事制度の浸透度 出典: パーソル総合研究所

理念・制度へのネガティブな印象では、「内容が綺麗ごとばかりだ」などの「綺麗ごと感」が強く感じられているという。「現場の現実がかみ合っていない」などの現場との一貫性欠如も高めであり、全体的に制度の方が印象が悪い傾向にある。

  • 理念・制度への印象 出典: パーソル総合研究所

理念・制度の浸透には、明確さや詳細さが共にプラスの影響をもたらすとのこと。 また理念では、課題の直視や脱・綺麗ごとなどが浸透につながっている。 制度では、ビジュアル性や現場でのリアリティなどが浸透に影響している。

  • 理念・制度の内容と浸透度 出典: パーソル総合研究所

理念や制度の浸透には、策定・浸透プロセスにおける従業員のインボルブメント(関与・参画・共感の実感)の度合いが大きくプラスの関係にあるという。対話機会、意見の吸い上げ、プロセスの透明性が、インボルブメントを上昇させる傾向が見られるとのこと。

  • 理念・制度の浸透度とインボルブメント 出典: パーソル総合研究所

業種別に見ると、教育、学習支援業、サービス業で対話機会や意見の吸い上げ機会がやや多く、プロセスの透明性も高い。設立15年以上の企業ではそうした機会を作れておらず、プロセスの透明性も低い傾向が見られるという。

  • 業種・従業員規模・設立年数と浸透プロセス 出典: パーソル総合研究所

浸透施策に登場する人物を見たところ、社長・代表取締役会長・CEOや部長・本部長クラスの管理職が多い半面、メンバー層の従業員や取引先・顧客は登場が少ない。

  • 浸透施策に登場する人物 出典: パーソル総合研究所

施策に登場する人物と浸透度への影響度の関連性では、理念については、施策に課長・リーダーや従業員の家族が登場している場合、プラスの影響が見られるという。人事制度では、メンバー層の従業員も浸透プロセスの多くにプラスの影響が見られるが。社長・会長・CEOといった組織トップはプラスの影響は確認できなかったとのこと。

  • 浸透施策に登場する人物と浸透度への萍郷 出典: パーソル総合研究所

理念や制度の噂を誰と話すか聞いたところ、従業員の5割が同僚・上司・先輩と話しており、同僚は「5回以上話した」が2割を超える。噂の内容の好意度では、制度は理念よりも好意的な噂が少ない。

  • 噂の頻度・好感度と相手 出典: パーソル総合研究所

浸透施策に抱いた感情を見ると、「時代が変わったと感じた」などの危機感や、「冷静に評価した」などの客観視が高い。噂の内容として話されやすいのは、「危機感」「共感」「ワクワク」「新規性」「驚き」といった感情だった。

  • 浸透施策に抱いた感情と噂の内容 出典: パーソル総合研究所

驚き・危機感・ワクワクといった感情を抱いた従業員は噂行動の頻度が多く、多くシェアしていると見られる。また、理念・制度の内容として、「課題の直視」や「ビジュアル性の高さ」も、噂行動の頻度を上げている。

  • 抱いた感情と噂行動の頻度 出典: パーソル総合研究所

理念、制度の策定・浸透プロセスにおける対話機会、意見の吸い上げ、プロセスの透明性が高いと、噂行動のポジティブさが上昇している傾向にあるという。

  • 理念・制度の策定・浸透プロセスと噂内容のポジティブさ 出典: パーソル総合研究所

理念・制度浸透の媒体(伝える手段)を見ると、理念、制度共に、全体説明会、社内イントラ、社内報などの一方通行型のコミュニケーション施策が突出している。

  • 理念・制度浸透の媒体 出典: パーソル総合研究所

浸透にプラス影響を与える伝達手段では、理念・制度共に、ロールプレイを含む研修、車座・ワークショップなどの双方型のメディア/イベントが共通してプラスの影響を与えている。また、理念では目標やアワードなどへ反映する評価反映型、制度ではアンケートや相談窓口などの吸い上げ型の媒体がプラスに関連している。

  • 浸透にプラス影響の伝達手段 出典: パーソル総合研究所

理念浸透の媒体・イベントと従業員感情の関係を見ると、双方向型の施策は、ポジティブ感情を喚起しネガティブ感情を抑制する傾向にある。アウター・コミュニケーションや個人フォーカス、評価反映型もポジティブ感情を喚起する傾向が全体的に見られるとのこと。

  • 理念浸透の媒体・イベントと従業員感情の関係 出典: パーソル総合研究所

調査結果を受けて、同社上席主任研究員の小林祐児氏は、「理念も制度も、経営や管理部門が決めたものを下に伝達する『暗室-伝達型』から、現場の巻き込みとリアリティを重視する『共創-拡散型』へと大きく変化する必要がある。就業価値観の多様化と労働力不足が同時に進行する中、企業の大方針としての理念やパーパス、組織の基盤としての人事制度の浸透は、これからも重要性を増し続ける」と述べている。