理化学研究所(理研)、北海道大学(北大)、静岡県立総合病院、静岡県立大学の4者は7月18日、日本人を対象にした大規模なゲノムワイド相関解析(GWAS)を行い、背骨に発生する疾患である「脊柱後縦靱帯骨化症」(OPLL)の発症に関わるゲノム上の新しい疾患感受性領域(遺伝子座)を同定したことを共同で発表した。
同成果は、理研 生命医科学研究センター(IMS) ゲノム解析応用研究チームの小池良直客員研究員(北大大学院 医学研究院 整形外科学教室兼務)、同・寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院 免疫研究部長/静岡県立大 特任教授兼任)、理研 IMS 骨関節疾患研究チーム(研究当時)の池川志郎チームリーダー(研究当時)、同・中島正宏研究員(研究当時)、北大大学院 医学研究院 整形外科学教室の高畑雅彦准教授らの研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「eLife」に掲載された。
50歳前後で発症することの多いOPLLは、椎体後面を縦走する後縦靱帯が骨化して背骨後方を走行する神経を圧迫し、重篤な運動・感覚障害が生じる難病で日本人を含む東アジア人に多いとされ、根本的な治療方法はなく予防法も確立されていないのが現状だという。
研究チームは、これまでにもGWASを実施してOPLLに関する6個の遺伝子座を同定。その後の機能解析により、疾患感受性遺伝子「RSPO2」のOPLLへの関与を確認していた。しかし、この結果のみでは病因を十分に説明できないことから、依然として多くの遺伝要因がOPLLに関与していることが推測されていた。
また、OPLLは2型糖尿病、肥満度(BMI)など、ほかの形質との関連が報告されているものの、肝心なOPLLとの因果関係が示されておらず治療に結び付いていないのが現状だったという。
そこで今回、GWASを行ってOPLLの治療につながる新しい遺伝子座を発見すること、さらには遺伝統計学的な切り口からOPLLの治療法や予防法につながる新しい知見を得ることを目的として研究を行うことにしたとする。
まず、異なる時期に募集が行われた3つのコホートの計2010人のOPLL患者を含む日本人2万2016人を対象とし、世界最大規模のOPLL GWASメタ解析が実施された。その結果、OPLL全体の解析でゲノムワイド有意水準を満たす14個の遺伝子座(そのうち新領域は8個)が発見され、「TMEM135」や「WWP2」などの骨代謝と関連する候補感受性遺伝子が含まれていたという。また、GWAS結果から推定される遺伝的寄与率は53%であり、OPLLに遺伝的要素が強く関与していることを裏付ける結果となったとする。
続いて、OPLL GWASメタ解析のデータと既報の日本人96形質のGWAS結果を用いて、OPLLとこれらの形質との遺伝相関を算出。その結果、OPLLはBMIと2型糖尿病と正の遺伝相関を、脳動脈瘤と負の遺伝相関が示されたという。また有意ではないものの、骨粗鬆症とも負の遺伝相関関係の傾向があり、本来あるべきではない箇所に骨増殖をするOPLLは骨量が減少する骨粗鬆症と遺伝的に対極な疾患であることが推定されたとする。
次に、形質同士の因果関係を推定する「メンデルランダム化解析」を用いて、これらの形質とOPLLの因果関係を推定し、ここでは罹患部位によりOPLLを頚椎OPLL、胸椎OPLLのサブタイプに分類て評価が行われた。その結果、高BMIからOPLLへ正の因果関係が示されたという。骨粗鬆症の評価に用いられる骨密度に関しては、高骨密度からOPLLへ正の因果関係が示された。さらに、これらの因果関係は特に胸椎OPLLで強いことが示された。
さらに、高BMIとOPLLの因果関係に着目し、日本人のBMI GWASデータを用いて遺伝的リスクスコア(PRS)を作成、および、OPLLサブタイプごとにスコアリングが行われ、OPLL患者におけるBMIの遺伝的リスクスコア(BMI-PRS)の効果量が比較された。その結果、BMI-PRSの効果量はOPLLに対し、正の効果があることが判明。またその効果量は、頚椎OPLLと比較し胸椎OPLLで有意に高いことが確認され、OPLLの中でも特に胸椎OPLLの発症に肥満が強く関与していることが突き止められたのである。
研究チームは今後、OPLL発症との関連が明らかになったゲノム領域に存在する遺伝子を介した発症メカニズムを解明することで、OPLLに対する新しい治療法の開発に貢献できることが期待できるとしている。また、高BMIと高骨密度はOPLLに因果関係があることが示されたことから、今後これらの形質を標的とした治療法や予防法の開発が期待できるとしている。