浜松医科大学は7月14日、血液脳関門を通過しにくく、静脈注射では脳へ移行しにくいモデル薬物について、新日本科学が開発したドラッグデリバリーシステム(DDS)「N2B-system」を用いて、カニクイザルの嗅部選択的に投与した時の脳内移行性を、PET(陽電子放出断層撮影)を用いた分子イメージング法により示すことに成功したと発表した。
同成果は、新日本科学の佐々木恵太氏、浜松医科大の間賀田泰寛教授、金沢大学の川井惠一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ドラッグデリバリーシステムに関する全般を扱う学術誌「Journal of Controlled Release」に掲載された。
中枢神経系疾患におけるアンメットメディカルニーズ(治療法がまだ見つかっていない疾患に対する医療ニーズのこと)は非常に高く、その治療薬の開発は多くの製薬企業において重点注力領域となっている。しかし、脳の血管には異物を通さないバリア機能である血液脳関門があるため、静脈内に投与された薬物の脳への移行や脳内標的部位への到達が難しく、開発が困難になる薬物もあるという。そのため、この問題を克服するDDSが医薬品開発の現場で強く求められていた。
そこで今回の研究では、新日本科学が開発したDDSであるN2B-systemを用いて、カニクイザルの鼻から、本来は血液脳関門を透過しにくい、ドーパミン受容体に結合親和性を有する薬剤「ドンペリドン」を投与。その後、血液脳関門を透過して同じ受容体に結合するPET用トレーサーの「18Fファリプライド」を静脈内投与し、脳PET画像を撮像した。そしてその結果から、脳内へ取り込まれた18Fファリプライドの量の変化をもとに、鼻から投与されたドンペリドンの脳内移行量を評価したという。
その結果、従来法により非嗅部選択的にドンペリドンを経鼻投与した場合と比較して、今回の方法では18Fファリプライドの脳への結合量がより顕著に減少し、N2B-systemを用いた嗅部選択的投与によりドンペリドンの脳移行性が高まることが示されたとする。
研究チームは今回の研究成果により、N2B-systemを用いて、血液脳関門透過性の低い薬物を脳内へ効率的に送達させ、その量を定量的に評価可能であることが示されたとしている。また今後は、分子化合物のみならず、中分子化合物であるペプチド医薬や核酸医薬を用いた脳神経疾患の治療につながることが期待されるとした。