青き水の惑星「地球」の象徴であり、生命誕生のみなもととなったとされる「海」。そこには数多の生き物に加え、現在の地球を形作ったさまざまな仕掛けが用意されていることが近年の研究から分かってきた。そんな身近な存在である“海”とは何か? をその誕生から現在に至るまで、海洋生物や人と海の関わりから知ることができる特別展「海 -生命のみなもと-」が東京・上野の国立科学博物館(科博)にて2023年7月15日より開催される。
同展は大きく「海と生命のはじまり」、「海と生き物のつながり」、「海からのめぐみ」、「海との共存、そして未来へ」の4章で構成されている。第1章である「海と生命のはじまり」の見どころは、地球に海をもたらしたと考えられる宇宙の石として、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星「リュウグウ」の試料の実物と、2000年に「ロストシティ」と呼ばれる熱水フィールドにて発見された、それまでの黒色の硫化物の影響で黒く変色した「熱水噴出孔(チムニー)」とは異なる、炭酸塩やシリカが沈殿してできた白いチムニー(炭酸塩チムニー)の実物。この炭酸塩チムニーはスイスのスイス連邦工科大学チューリッヒ校(チューリッヒ工科大学:ETH Zurich)から借り受けたものだという。
第2章の「海と生き物のつながり」の見どころは、複数の実物大標本が展示されている点。中でも高さ約4.7mのナガスクジラの上半身標本は圧倒的。近年、「ホエールポンプ」と呼ばれる、クジラがエサを食べるために深海まで潜り、呼吸のために海面にまで戻ってくる鉛直移動と、それに伴って栄養が豊富な海洋深層水などの物質が表層近くへ運ばれ、食物連鎖の源となる植物プランクトンの繁殖が進み、それが豊かな漁場を生み出すという概念が、植物プランクトンのCO2回収能力の高さも相まって注目を集めるようになってきた。
また、クジラやイルカが河川に迷い込んだり、陸に打ち上がったりする「ストランディング」についても解説。同志社大学ハリス理化学研究所専任研究所員 助教である桝太一氏が同展公式ナビゲーターを務める音声ガイドでは、海岸にストランディングしたクジラやイルカを数千体も解剖してきた経験を有し、今回の監修者の1人として名を連ねる国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹の田島木綿子氏とのやり取りなどで、クジラが深海にいかに貢献しているか、といった話などを聞くこともできる。
第3章の「海からのめぐみ」の見どころは、約2万3000年前という世界最古の貝製釣針の展示のほか、同館主催で進めてきた「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」で実際に台湾から与那国島へ渡ることに成功した丸木舟とその際に用いた櫂、丸木舟製作に用いられた石斧の展示や、静岡県で発見された旧石器時代の神津島産黒曜石の石器の実物、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する最大深度4500mmまで潜航可能な無人探査機「ハイパードルフィン」の実機など、海洋国家である日本を過去から現在まで形作ってきた海にまつわるさまざまな道具の実物の展示。海運のための次世代船の模型や、実際に海中・海底から採取されたレアアース泥や金などの鉱物資源なども見ることができる。
第4章の「海との共存、そして未来へ」の見どころは、海の生物多様性と海洋汚染の観点で紹介されているクジラの胃から発見された海洋プラスチックやウミガメの胃から発見されたビニールなどといった海洋ゴミ。日本近海の深海の底に落ちていたゴミなども展示されているほか、そうしたゴミ、特にプラスチックを海の生物が誤食し、食物連鎖が進むごとに濃縮されていくことで、有害化学物質がやがては人にも高濃度で蓄積されてしまうといった、深海のトッププレデター(捕食者)として、近年、新種として認定されたばかりのヨコヅナイワシやフトツノザメの標本を通じて知ることもできるようになっている。
第2会場では海洋汚染に関する人類の対応策などとして、海洋生分解性材料の紹介や、海洋ゴミから作られた等身大人形「海ゴミモンスターくん」や「海ゴミバードくん」などの展示のほか、日本テレビの「ザ!鉄腕!DASH!!」で桝氏も長年関わってきた、ゴミだらけで砂浜もなかった東京湾の工業地帯の一角の入り江を借り受け渚の再生に挑む「DASH海岸」の現在の状況を説明する模型や、この特別展を通じて来場者が考えたことや、誰かに伝えたいこと、自分に何ができるのか? といったことをメッセージやイラストで書いたものが、後日ほかの来場者に会場で投影、公開される「海へのメッセージ」などを見ることができるようになっている。
このほか、会場の最後に設置されている売店では、同展の公式キャラクターを使ったグッズのほか、サンリオの人気キャラクター「ハンギョドン」とコラボしたグッズも販売している。
なお、同特別展の東京会場での概要は以下のとおり。東京会場での展示終了後は、2024年3月16日(土)~6月9日(日)にかけて名古屋市科学館にて名古屋展として開催される予定。
- 会場:国立科学博物館(東京・上野) 地球館地下1階 特別展示室
- 会期:2023年7月15日(土)~10月9日(月・祝)
- 開館時間:9時~17時(入場は16時30分まで)、8月11日(金・祝)~20日(日)は夜間開館のため19時閉館(入場は18時30分まで)常設展示は8月11日(金・祝)~15日(火)は18時まで。それ以外の期間は17時まで(入場は各閉館時間の30分前まで)
- 休館日:9月4日(月)、9月11日(月)、9月19日(火)、9月25日(月)
- 入場料:一般・大学生2000円、小・中・高校生600円、未就学児は無料(公式チケットサイト「ART PASS」、美術展ナビチケットアプリ、アソビュー!、各種プレイガイドにて購入可能)
- 入場には、オンラインによる(未就学児など無料対象者も含めた)日時指定予約を推奨(各種プレイガイドでのチケット購入の場合、来場時に購入したコンビニ店頭で発行した紙チケットと日時指定予約のQRチケットが必要なことに注意)
- 会場内は基本的に撮影可能だが、一部写真撮影禁止の展示物ならびに映像がある点に注意。会場内でのフラッシュ撮影、三脚、一脚、自撮り棒の使用および動画撮影は禁止。