宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月14日、能代ロケット実験場(秋田県能代市)において、新型ロケット「イプシロンS」第2段モーターの燃焼試験を行ったものの、燃焼中に異常が発生、激しく爆発・炎上した。イプシロンSは2024年度の初打ち上げを予定しているが、今回の失敗により、見通しはやや不透明になった。
イプシロンSは、現行機・強化型イプシロンの後継機として開発が進められている小型固体ロケットである。全長が約26m→約27.2mと、規模はそれほど変わらないものの、打ち上げ能力が向上。太陽同期軌道(SSO)の場合、強化型が高度500kmに590kgであったのに対し、イプシロンSは高度350~700kmに600kgと、より高高度まで運べるようになる。
固体3段+液体エンジン「PBS」という機体構成も同様だが、大きな特徴と言えるのは、第3段を大型化し、フェアリングの外に出したことだ。従来は、衛星を搭載してから全段点検を実施せざるを得なかったのに対し、イプシロンSは全段点検後に衛星を搭載することが可能。衛星受領から打ち上げまでの期間が10日以内に短縮され、運用性が向上した。
そのほか第1段は、H-IIAの固体ロケットブースタ「SRB-A」から、H3の固体ロケットブースタ「SRB-3」に変更。固体3段のうち、すでに、この第1段と第3段の燃焼試験は完了しており、今回実施した第2段モーターの燃焼試験は、イプシロンSの完成に向け、いわば「最後の大きな山場」だったと言える。
第1段と第3段に比べれば、第2段の変更は、それほど大きくはない。イプシロンSの第2段モーター「E-21」は、強化型の第2段モーター「M-35」をベースに改良。打ち上げ能力が最適となるよう、推力を強化、推進剤の搭載量が約15トンから約18トンに増え、それに伴い全長も4.0mから4.3mへと、少しだけ長くなった。
今回の燃焼試験は、この第2段モーターの着火・燃焼・推進特性を確認するために行ったもの。当初は11時に実施する予定だったが、予想される風向きが悪かったため、9時に前倒し。報道陣は、南側に約600m離れた位置に待機し、そのときを待った。
天候は晴れで、風向きも問題なく、燃焼試験は、予定通り9時に開始。着火された第2段モーターは順調に燃焼していたように見えたが、開始から約57秒後、予定していた120秒の中間あたりで、突然爆発した。JAXAの発表によれば、人的被害は無かったという。
失敗の原因はまだ分かっておらず、これから詳細なデータを検討することになるが、現地で昼過ぎに取材対応したJAXAの井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャによれば、速報レベルの数値ではあるものの、燃焼圧力が予想より少し高かったことが分かっているという。
ただ、この圧力上昇は着火の20秒すぎあたりから発生したとのことだが、モーターケース自体はそれよりも高い圧力でも耐えられることを確認しているとのことで、この圧力上昇が直ちに原因に関係するとは言い切れない状況だ。詳しくは、今後の分析を待つしかないだろう。
H3ロケット初号機は、あまり大きな変更が無かったはずの第2段で失敗して「まさか」という驚きがあったが、イプシロンSの第2段も基本的にはサイズアップで、井元プロマネによれば、モーターケースの作りなどはそれほど変わっていないとのこと。それだけに、爆発という最悪な形での失敗は衝撃が大きい。
井元プロマネもまだ現場の様子を確認していないとのことで、第2段モーターがどの程度残っているかは不明。爆発の大きさから、大きく破壊しているのは確実だが、残った部分を調べることで、分かることは多いだろう。
イプシロンSの2024年度という打ち上げ時期について、現時点での影響は不明。これは、原因を究明し、対策に要する期間が見えてくるまでは、判断しようがない。井元プロマネも「延期の可能性はゼロではない」と言及するに留めた。
井元プロマネは、「最後の燃焼試験で異常が発生したのは残念。ただ、これからしっかり原因を究明し、イプシロンSの設計に反映していくことが、信頼性の向上に繋がる」とコメント。イプシロン6号機の失敗原因が特定され、イプシロンSの完成が見えてきていただけに、今回の失敗は大きな痛手ではあるが、「これからが重要」と前を向いた。