京都大学(京大)と新潟大学(新大)の両者は7月13日、ヤマトシロアリを用いて、王と女王が繁殖に専念するため働きアリから与えられる特別な給餌物の採取と分析に成功し、シロアリのロイヤルフードの成分を特定したことを発表した。

  • (左上)王への給餌。(左下)女王への給餌。(右)ロイヤルフードの脂質成分の王・女王特異性。

    (左上)王への給餌。(左下)女王への給餌。(右)ロイヤルフードの脂質成分の王・女王特異性。(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、京大大学院 農学研究科の松浦健二教授、同・高田守助教、同・ 日本学術振興会特別研究員の田﨑英祐氏(現・新大 助教)、同・三高雄希特定研究員(現・日本学術振興会海外特別研究員)を中心に、浜松医科大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」の姉妹誌で科学の幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「PNAS Nexus」に掲載された。

アリやハチ、シロアリなどは社会性昆虫として知られ、進化の中で洗練された分業システムを確立し、現在の繁栄を獲得するに至っている。これらの昆虫は、繁殖担当の個体と労働担当の個体で分業し、それぞれの役割に特化することで効率的な社会生活を営んでいる。異なる役割の個体は、形態・行動・生理的特徴だけでなく、遺伝子発現パターン・代謝・化学受容・寿命・抗酸化物質・免疫システムなども異なるという。

生物は一般的に、活発に活動するほど寿命が短くなるというトレードオフがある。しかし社会性昆虫では、巣において最も活発に繁殖する個体が最も長寿であり、このトレードオフが打破されている。それを根底で支えているのが、繁殖虫が摂取する特別な食べ物だといい、たとえばミツバチでは、女王になる幼虫に与えられるロイヤルゼリーが良く知られている。

シロアリは名前にアリとつくものの、ゴキブリの系統に属する昆虫で、アリやハチとはまったく独立して社会性を進化させてきたことがわかっている。同種は高度な社会性とセルロースの効率的な消化能力を有しており、著しい進化的成功を収めているといい、特に熱帯地域では土壌中の昆虫バイオマスの95%をシロアリが占めているとされる。

アリやハチとは異なり、シロアリのコロニーには王と女王の両方が存在し、彼らは完全に働きアリからの給餌によって高い繁殖力を維持している。しかし、シロアリの王と女王の特別食であるロイヤルフードについてはまったく未解明だったといい、その要因として、シロアリの王や女王をたくさん採集することの難しさや、給餌物の採取、微量サンプルの分析の困難さが大きなハードルとなっていたとする。そこで研究チームは今回、まずシロアリの王と女王を効率的に採集する技術を確立し、化学分析のために十分な量のロイヤルフードを直接サンプリングする方法を開発したという。