HITO病院、スマートゲート、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は7月14日、「医療現場におけるスマートグラスを活用した未来型看護実現の実証実験」を開始すると発表し、記者会見を開いた。
昨今の医療業界においては、人材不足により夜間帯や休日の医療対応が困難となっている。これに伴って、医師や看護師の労務負担の増加も問題だ。さらには、患者の高齢化をはじめ、生活習慣病や多疾患などの複雑化による疾病構造の変化、IT活用の遅れなども医療現場の課題となっている。
こうした課題の解決を目指し、3社はスマートグラスとネットワークカメラを活用した患者の遠隔見守りと、ハンズフリーによる現場コミュニケーションの高度化、および医療提供サービスの質の向上を目指す実証実験を開始する。将来は、病院だけでなく在宅医療における医療サービスの高度化も目指すという。
実証実験で具体的に取り組むのは、「スマートグラスを活用した患者の遠隔見守りによる看護師の負担軽減」「スマートグラスを活用した現場コミュニーションの高度化」「スマートグラスとオンライン診療システムの連携による新たな利活用シーンの検討」の3項目。
スマートグラスを活用した患者の遠隔見守りによる看護師の負担軽減では、患者ベッド横にネットワークカメラを設置して看護師が装着するスマートグラスに投影することで、きめ細やかな見守りと医療安全性の確保、看護師の身体的および心理的な負担を軽減できるかを検証する。
また、従来のナースコールボタンをIoTボタンへと変更し、患者からスマートグラスへの呼びかけを可能にするとともに、患者のステータスを一覧で確認できるようにすることで、ケアの抜け漏れや遅延を防ぐ。今後はボタン型のみならずIoTセンサーと組み合わせ、より柔軟な患者ケアの提供も目指す。
スマートグラスを活用した現場コミュニケーションの高度化においては、ネットワークカメラの映像やスマートグラス上の視点映像を医療従事者同士で共有して、映像と音声を用いた双方向コミュニケーションを図ることで、介助の手を止めずに正確なコミュニケーションが取れるのかを検討する。
スマートグラスとオンライン診療システムの連携による新たな利活用シーンの検討では、将来的な病院外での医療サービス提供を見据えて、在宅医療における医療従事者の利便性向上について検証する。
今回3社が開始する実証実験は、全3ステップあるうちの第一弾だという。まずはステップ1として病棟での試験的な導入と、サービス化の検討を開始する。ステップ2は2024年~2025年をめどに、この仕組みを全国へと拡大する。さらにステップ3では、2026年以降を目安として新たな見守りやコミュニケーションの価値創造を模索する。
今回の実証実験を通じて多くのデータを蓄積し、今後は医療現場を支援するAI(Artificial Intelligence:人工知能)の開発も視野に入れている。AIの活用例としては、患者の侵入や徘徊を検知するAIカメラや、患者ケアをサポートする会話型AI、患者の行動の傾向から傾向を分析して改善策を提案するAIなどが考えられる。
実験に参画するNTT Comで5GやIoTを担当する大西智之氏は「実証実験を通じて、さまざまな要望が出てくると考えられる。そうした声に対応するためにも、今回の取り組みに興味を持ってくれるスマートグラスベンダーがいたら問い合わせてほしい」と呼び掛けていた。