2022年のサッカーW杯は、インターネット回線でコンテンツを届けるOTT(Over The Top)サービスで全試合が生中継され、OTTサービスの大きな躍進を印象付けました。
また、動画を取り巻く環境の中で、アメリカのマーケティング市場では「クリエイターエコノミーからプロデューサーエコノミーへの進化」が新たに話題になっています。
本稿では、ブライトコーブのCEOマーク・デベボワーズが、劇的な変化を遂げる動画配信市場のトレンドとして、OTTサービスの今後とプロデューサーエコノミーの到来について解説します。
コロナ禍で浸透した企業向けストリーミング市場はまだ成長の余地あり
新型コロナウイルスのまん延が、人々のメディアの消費を高め、ストリーミングビジネスに大きな影響を与えたのは明らかです。しかし、それにも増して重要なのは、ビジネスの基本的なツールとして動画が使用されるようになったことでしょう。
ブライトコーブは元々メディア業界でさまざまな取り組みを行ってきましたが、最近は、エンタープライズビジネスの領域として、セールス・マーケティングと社内コミュニケーションにも注力しています。
新型コロナウイルスの感染が明らかにしたことは、動画とストリーミングがエンタープライズとメディアの両方、すなわちビジネスのあり方そのものと、消費者のメディアの使い方の双方を変える可能性を秘めているということなのです。
メディアも、エンタープライズビジネスや企業も、まだまだ成長中の業界です。新型コロナウイルスの影響が大きかった時期は過ぎ、現在では両分野の成長は鈍化しているものの、まだ成長は続いています。ブライトコーブは、会社として正しい方向を向いていると思いますし、消費者の視点からもBtoBの視点からも、動画とストリーミングの市場は拡大し、成長を続けています。
ケーブルやテレビはアメリカでも、日本などその他の地域でもそれほど成長していませんが、それらの成長も時間の問題でしょう。私たちは各大型市場で、その市場の大手メディア・ストリーミングパートナーと協力し、提携しています。企業側のビジネスは、まだ始まったばかりなのです。
差別化されたOTTサービスは必ずユーザーが集まる
インターネット回線によってコンテンツを届けるOTTサービスは、近年世界の複数の地域で誕生し、急速に成長しています。サッカーの試合は、以前ならテレビで見たものでした。しかし、2022年のワールドカップは、日本ではAbemaやTVerといったOTTサービスが試合を配信しています。アメリカやメキシコ、イギリスなどでも同様です。
TVerは、「魅力的なコンテンツをすべてのデバイスで利用できるようにすることが、消費者が求めていること」と考えています。スポーツの試合はその良い例といえるでしょう。ライブイベントつまり、テレビによる中継がまさに威力を発揮するからです。OTTサービスによって、テレビはこれからさらなる発展が期待できます。
私はアメリカの放送局で、OTTサービスの構築に携わった経験があります。Pramaount+(パラマウントプラス)というサービスで、スタート当初はCBS All Accessというスーパーファンサービスでした。私たちは、テレビで現に放映されている以上のものを求めるファンが、まだ存在すると考えたのです。
TVerが日本の民放キー局などの共同出資により設立されたのは、非常に象徴的な出来事だったと思います。消費者はオンデマンドによる番組提供を望むでしょう。仮に現時点ではそうでなかったとしても、時間が経てばそうなります。OTTサービスは、従来のテレビ放送よりビジネスモデルとして有利です。よりターゲットを絞った広告やサブスクリプション、ユーザーデータを使ってビジネスを成長させ、エンドユーザーにとってより良い番組の制作が可能になるからです。
適切なタイミングで適切なコンテンツを提供できるOTTサービスは、テレビ放送やその関連技術と比較して、根本的な利点があります。そのため、映画「フィールド・オブ・ドリームス」のなかの不朽の名言「まず先に作ってしまえば、お客さんはきっと来るようになる(If you build it, they will come)」のとおり、差別化されたOTTサービスをスタートすればユーザーは必ず来ます。差別化されたユーザー体験や、時間と場所を選ばないデバイスを横断した番組の視聴、それに視聴可能な番組の数が増えることを求めると、私は考えるからです。
QoEがコンバージョン率やブランド評価などを決める軸になる
ストリーミング市場では「QoE」が重要な指標となっています。QoEとは「Quality of Experience(体験の品質)」のことで、特定の体験における動画再生が良好か、改善しているか、あるいは悪化しているかを判断するために使用する測定値です。
動画は、他のどの形式の伝達方法とも異なる方法で人々を惹きつけることができます。視覚、音、動きが一体となって感情を伝え、反応をもたらし、短時間で多くの情報を伝達することは、静止画や音声ではできません。
一方、動画の企業利用の観点からは、動画のアクティブな体験で従業員を惹きつけ、情報を提供できることが基本的に重要なキーとなります。特にコロナ以後は、誰もが毎日オフィスにいるとは限らない、ハイブリッドな環境になっているからです。
さらにまた、マーケティングの観点からいえば、製品へのエンゲージメントが高ければ高いほど、その製品の購入やコンバージョンに至る確率が高くなることが証明されています。エンゲージメントを高めるためのツールとして、動画は最適です。インターネット上で製品やコンテンツを販売する場合でも、ユーザーに動画を見てもらえれば結果は劇的に良くなるでしょう。
すなわち、QoEは、お客様を購入者にどれだけ変えられるのか、あるいは従業員の会社でのコミュニケーションがどれだけ快適で気兼ねがないか、テレビ番組や映画を見てどう感じるか、あるブランドをどう評価するか、あるユーザーが使用の継続を決めて使用料を払うかどうか、など諸々のことを決めることになるのです。