京都大学(京大)と筑波大学の両者は、5歳時点でコロナ禍を経験した群はそうでない群と比べて平均4.39か月の発達の遅れを確認。一方で、3歳時点では明確な発達の遅れはみられず、むしろ発達が進んでいる領域があることを確認したと発表した。またコロナ禍で、3歳、5歳ともに発達の個人差・施設差が拡大していることも明らかになったという。
同成果は、京大 医学研究科の佐藤豪竜助教、筑波大 人文社会系の深井太洋助教、慶應義塾大学の藤澤啓子教授、同・中室牧子教授、東京財団政策研究所の共同研究チームによるもの。詳細は、米国医学会が刊行する小児医学を扱う学術誌「JAMA Pediatrics」に掲載された。
これまで多くの研究により、コロナ禍が子どもの生活や健康に負の影響を与えたことが示唆されている。例えば、コロナ禍で子どもたちの間でメンタルヘルスの問題が増え、睡眠の質が下がり、運動不足や体重が増加する子どもが増えたほか、就学児の学力が下がったことなどが示されてきたという。
しかし、コロナ禍が未就学児の発達にどのような影響を与えたのかはほとんどわかっておらず、研究チームは今回、コロナ禍以前から実施されていた首都圏のある自治体の保育園児に対する調査を分析し、コロナ禍と乳幼児の発達の関連を調べることにしたとする。
具体的な調査方法としては、首都圏のある自治体の全認可保育所(小規模含む)に通う1歳または3歳の乳幼児887名に対し、2017年から2019年までの間に1回目の調査を、その2年後に2回目の調査を実施。追跡期間中にコロナ禍を経験した群とそうでない群の間で、3歳または5歳時(各年4月1日時点の年齢)の発達の比較が行われた。
乳幼児の発達に関しては、全国の38都道府県の乳幼児約6000名によって標準化された検査法「KIDS乳幼児発達スケール」を用いて、保育士による客観的な評価が行われ、分析では子どもの月齢、性別、1回目調査時の発達、保育園の保育の質、保護者の精神状態、出生時体重、家族構成、世帯所得、登園日数などの影響も考慮したとする。
分析の結果、5歳時点でコロナ禍を経験した群はそうでない群と比べて平均4.39か月の発達の遅れが確認されたという。一方、3歳時点では明確な発達の遅れは見られず、むしろ運動や手指の操作、抽象的な概念理解、対子ども社会性、対成人社会性の領域では発達が進んでいたとした。
またコロナ禍で、3歳、5歳どちらも発達の個人差・施設差が拡大していることも分かり、日本で保育の質の指標として用いられる ECERS/ITERSでの評価をもとに、質の高い保育を提供している保育園に通っていた子は、コロナ禍においても3歳時点の発達が良い傾向にあった一方で、精神的な不調を抱える保護者の子はコロナ過で5歳時点の発達の遅れが顕著だったとした。
研究チームは、3歳児の発達が進んだ理由として、コロナ禍にて保護者の在宅勤務が増えたことが関係しているのではないかと考察している。この年齢の子どもは、大人とのやり取りを通してさまざまなことを学ぶため、大人との1対1のコミュニケーションが発達において重要であり、在宅勤務によって保護者が子どもと密に接する時間が増えたことで、コロナ禍が3歳児の発達にポジティブな影響を与えた可能性があるとした。
一方、5歳児は発達段階において社会性を身につける時期であり、他者との交流が重要。コロナ禍によって保護者以外の大人やほかの子どもと触れ合う機会が制限されたことが、発達に負の影響を与えた可能性があると考えているとした。
なお、研究チームは、コロナ禍で発達の遅れが生じた子どもに対して積極的な支援を行う必要があるとし、今後の感染状況に留意しつつなるべく速やかにコロナ禍前の保育環境に戻していくことが、乳幼児の発達の上で重要だとしている。ただし、今回の研究結果について、あくまで首都圏のある自治体の保育園児のデータであるため、ほかの自治体や国、あるいは幼稚園児にも当てはまる下どうかはわからない部分があるとしているほか、コロナ禍を経験した群とそうでない群を比較する際に、両者に観察できていない違いがあった場合は、結果にバイアスが生じている可能性があるとしており、特に今回の調査で判明した発達の遅れについては、そうした子供への影響が長期的なものであるのかどうかについてはまだわからないところが多いため、さらなる追跡調査が必要だともしている。