北里大学と慶應義塾大学(慶大)は、ヒトに近い皮膚性状を持つ特殊なミニブタを用いて、水素風呂入浴における水素ガスの体内動態を明らかにし、体表からの吸収だけでなく呼吸による水素ガスの取り込みという経路からも効果を得られる有効なシステムであることを解明したと発表した。
同成果は、北里大 獣医学部 ミニブタ研究推進寄附講座の岩井聡美准教授、同 小林英司客員教授、慶大 医学部の佐野元昭准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ポーランドの科学雑誌『Archives of Medical Sciences.Civilization Diseases.』(オンライン版)に掲載された。
近年、生活習慣病である循環器障害や救急医療、脳損傷ほか、臓器移植に伴う虚血再灌流障害に対する水素の治療効果が注目されている。さらに、ヘルスケア分野においても水素入浴が盛んに行われるようになっており、水素の健康効果に対する関心が高まっていることといえる。
一方で、これまで超低分子である水素ガスは皮膚から拡散能で体内吸収されると考えられていたものの、水素入浴システムに入浴している間の体内への水素の取り込みがどのように起こっているかは分かっていなかったという。
そこで研究チームは今回、水素の体内動態を解析するため、皮膚性状がヒトのそれに極めて酷似していることから、薬物などの経費吸収試験に適するとされるヘアレスミニピッグを用いて、ヒトで検討不可能な皮膚からの水素吸収性実験を行うことを決定。ヘアレスミニピッグから経時的に採血できるシステムの確立と、高濃度で水素を温水に溶存することができる水素入浴システムの開発を行った。
具体的な方法としては、ヘアレスミニピッグの静脈に採血ポートを設置。水素溶存あるいは水素非溶存のバスタブに20分間入浴させ、正確に経過時間ごとに採血を実施したという。
研究に用いられた水素入浴システムは、ドクターズ・マンによって開発された「2×2フォロファイバー方式」によるもの(H2JI1フラッシュバブリングシステム)で、約80Lのお風呂に毎分1.5Lの循環能力のあるポンプで水素水生成ラインを循環させ、徐々に風呂全体の水素濃度を高める方式を採用している。また吸込口と吐出口は1/4インチのチューブホースで、手でかき回し風呂内での対流を行ったとする。
また、ヘアレスミニピッグの入浴実験に際しては、小児用バスタブに水道水をはり、ヒーターで37℃~38℃に加温した後、H2JI1フラッシュバブリングシステムを用いて水素を溶存させ、用手にて頭が水中に潜らないよう保持しながら伏臥位で20分間浴槽に入浴させたとのことだ。
実験の結果、水素入浴システムを用いた水素溶存液での入浴では、後大静脈における水素濃度が上昇したが、水素非溶存液での入浴では検出限界以下だったという。
このことから研究チームは、体表の毛細血管において温水中に溶存した水素が皮膚を透過した可能性があるほか、体表だけでなく、体表近くの組織まで水素を供給することが可能であることが考察されたとしている。
そして以上のことから、実際にヒトがこの水素入浴システムを使用する場合、通常の呼吸をしている状態であるため、体表からの吸収だけでなく、呼吸からの取り込みという両方からの効果を得られる有効なシステムであると考えられるとする。
研究チームは、これまでの水素の健康や病気に対する作用から、温水に水素を溶存させ歩行トレーニングをする水中トレッドミルシステムへの使用の展望があるほか、ヒトの健康トレーニングはもとより、病気で種々の炎症反応がある伴侶動物や激しいトレーニングをする競走馬などにも応用できる可能性があるとしている。