東京大学(東大)と順天堂大学の両者は7月7日、哺乳類の内臓が左右非対称に発生するために働く新しい機構を動物実験で発見したことを共同で発表した。
同成果は、東大大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 細胞構築学分野の田中庸介講師、同・両角愛大学院生(現・客員研究員)、同・廣川信隆特任教授(現・順天堂大 健康総合科学先端研究機構 特任教授/東大名誉教授兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、細胞生物学と発生生物学を扱う学術誌「Developmental Cell」に掲載された。
内臓の左右非対称性は生命維持に非常に重要だが、なぜ生じるのかは未解明だ。研究チームは以前、腹側ノード内での線毛回転により左向きのノード流が生じ、その結果として腹側ノードの左側のみで細胞内カルシウムが上昇して左側特異的なシグナル伝達を惹起するという経路を同定済みしている。しかし同経路において、ノード流がカルシウム上昇を生み出す分子機構については未解明のままだったことから、今回はその謎を解明すべく「ポリシスチン移送仮説」を提唱することにしたとする。
研究チームはまず、mRNAの「Pkd1l1」が作り出す「PKD1L1タンパク質」を免疫染色したとのこと。すると腹側ノードの左側にはみ出すような染色像が得られ、同部位で作られたPKD1L1タンパク質がノード流に乗って左側に移送されている可能性が示唆されたという。続いてPkd1l1遺伝子に蛍光タンパク質をつけて細胞で発現させると、培地中の細胞外小胞にPKD1L1タンパク質が濃縮されて分泌され、そのタンパク質の一部は、さらに中央で切断されることも確認された。
次に、PKD1L1タンパク質の末端に「KikGR蛍光タンパク質」を融合させ、個体内のすべてのPKD1L1タンパク質が蛍光で光って見えるマウスを作出したとする。なお、KikGRタンパク質は紫外線照射で緑から赤へと変化することから、ある部位にのみ紫外線を照射し色を変えておけば、その部分のPKD1L1タンパク質の追跡が可能となる。
その後、当該のマウス胚を蛍光観察したところ、KikGR-PKD1L1タンパク質の蛍光は、免疫染色に一致して、腹側ノードの中心部から橋のような構造を通じて左側にあふれ出していることがわかった。また併せて、FGFシグナリング阻害剤「SU5402」で処理するとこの橋がなくなり、さらに「ソニック・ヘッジホッグ」を加えると橋が復活することも明らかにされた。これらは以前の実験結果とも一致したことから、おそらく、この橋を介してPKD1L1タンパク質がノード左側に移送され、カルシウム上昇を媒介していることが推測されたとする。
さらに同じ胚において、腹側ノードのKikGR-PKD1L1タンパク質の蛍光を赤に変えた上で観察を行った結果、腹側ノード内で赤く変化したKikGR-PKD1L1タンパク質は徐々に左側にシフトし、ノードの左側に移送されていく様子が観察されたという。