国立障害者リハビリテーションセンター(国リハ)、国立循環器病研究センター(国循)、東京大学(東大)、東京農工大学、九州大学、国際医療福祉大学、関西学院大学、群馬大学、東北大学、大阪大学、岩井医療財団、新潟医療福祉大学の12者は7月7日、ラットを用いた実験とヒト成人を対象とした臨床試験にて、適度な運動が高血圧改善をもたらすメカニズムを発見したことを共同で発表した。

  • 今回の研究で明らかにされた適度な運動による高血圧改善のメカニズムおよびそのヒトでの検証。

    今回の研究で明らかにされた適度な運動による高血圧改善のメカニズムおよびそのヒトでの検証。(出所:農工大Webサイト)

同成果は、国リハ 運動機能リハビリテーション科の村瀬修平氏(東大大学院 医学系研究科 整形外科学兼任)、国リハ病院 臨床研究開発部の澤田泰宏部長(国循研究所 細胞生物学部 客員部長兼任)、国循研究所 細胞生物学部の﨑谷直義リサーチフェローらを中心に、上述の12機関に所沢ハートセンターを加えた共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の医用生体工学を扱う学術誌「Nature Biomedical Engineering」に掲載された。

加齢に関連した疾患・障害の予防に、適度な運動が有効であることが統計的に証明されているが、運動の何が身体に好影響を与えるのか、実はあまり解明できていないという。そこで研究チームは今回、「運動→頭部に適度な衝撃→脳内間質液流動→脳内の細胞に力学的刺激→脳内の細胞の機能調節」という分子の仕組みが、死亡リスクファクタとして重要である高血圧の予防あるいは改善においても重要な役割を果たしているかどうかを、動物・細胞実験に加え、ヒト高血圧者を対象とした臨床試験で検証したとする。

同試験ではまず、頭部に加速度計が設置されたラットに対し、適度な運動として定速での走行(分速20m)が課せられた。すると、前肢の着地時に頭部に約1Gの上下方向の衝撃が検出された。続いて、麻酔下に高血圧ラットの頭部を上下動することで1Gの上下方向の衝撃を与えたところ(1日30分間・4週間)、分速20mの走行(やはり1日30分間で4週間)と同様に血圧が下降し、尿中に排泄される副腎皮質ホルモン「ノルエピネフリン」の量が減少したという。また、これらの受動的頭部上下動や走行は、いずれも脳のアストロサイトにおける「アンジオテンシンII1型受容体」の発現を低下させることも確認されたとしている。

一方、この受動的頭部上下動による血圧下降・交感神経活性抑制は、高血圧ラットにのみに生じ、正常血圧ラットの場合はさらなる血圧下降や交感神経活性低下は生じなかったという。