パーソル総合研究所は7月10日、「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」の結果を発表した。これによると、精神障害者の雇用数は増加しているが、定着と活躍には環境整備が課題だという。

同調査のうち、企業を対象としたものは同社が1月19日から2月9日にかけてWebアンケートにより全国21都府県の障害者を3人以上雇用する企業などを対象に実施し、有効回答社数は一般企業が691社、特例子会社が37社、就労継続支援A型事業所・その他が18社の計746社。

企業に、障害の種類別に直近5年間の雇用数増減を尋ねたところ、精神障害者の雇用を増やしたとの回答が33.8%で最も多い。

  • 直近5年間の障害者雇用の増減傾向 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

障害の種類別に雇用ノウハウを聞くと、精神障害者に関しては蓄積途上および手探り状態が計57.0%に上り、特に手探り状態は25.5%と全障害の中で最多だった。

  • 障害者雇用ノウハウの蓄積状況 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

障害の種類別に雇用ノウハウの蓄積状況ごとの過去5年間の雇用増減を見たところ、精神障害者では、手探り状態の企業の26.1%、蓄積途上の企業の47.4%で雇用数が増加しており、他障害よりも増加率が高い。精神障害者については、他障害に比べて雇用ノウハウに乏しい企業でも雇用が増加している傾向にある。

  • 雇用ノウハウ蓄積状況と直近5年間の雇用数増減の関係(障害の種類別) 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

障害者雇用に関する雇用態度では、「障害者には成果発揮を求めず安定的に働いてもらうことを重視」が55.3%と過半数に上り、また「障害者の業務能力育成を重視」の34.4%を大きく上回っており、育成重視よりも戦力化非重視の企業の方が多い傾向にある。 半面、「障害者雇用は社内で優先度が低く、人や資金が割かれていない」との回答が28.9%に上っている。

  • 障害者雇用での雇用態度(企業形態別) 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

企業規模別に見ると、大企業は中小企業に比べ雇用数の確保を重視する割合がやや高く、戦力化非重視や専門家との連携もやや高い傾向にある。

  • 障害者雇用での雇用態度(企業規模別) 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

蓄積ノウハウと雇用成功度に目を転じると、精神障害者の雇用ノウハウがある企業では、精神障害者の定着・活躍状況や、精神障害者雇用の成功度が高い。精神障害者の雇用ノウハウの蓄積により、精神障害者雇用の成功度は高まるものと同社は考えている。

  • 精神障害者の定着・活躍状況と雇用の成功度 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

障害者雇用における課題を尋ねたところ、精神障害者雇用では「採用時の見極めが困難」が63.6%で最も多く、以下「勤怠・パフォーマンスが不安定」(44.7%)、「配属先の理解が得られない」(43.6%)が続き、他障害よりも課題感が強い。

精神障害者では、個々人で異なる障害特性を把握した適切な配慮が難しいため、採用時の見極めや配属先現場の対応の課題感が強いと同社は見る。

  • 障害者雇用の課題 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

精神障害者の雇用ノウハウ蓄積状況別にどのようなイメージを抱いているかを見ると、ウハウを蓄積すると「適切な治療を受けていれば就労できる人は多い」「仕事の潜在能力が高い人が多い」といった就労可能性や能力に対するイメージが高まる傾向にあり、「どう接したらよいか分からない」といったネガティブなイメージが低減する傾向にある。

  • 精神障害者の雇用ノウハウ蓄積状況とイメージ 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

定着・活躍度と雇用管理施策との関係を見たところ、特に精神障害者では、「採用前の採用計画の立案」「職場見学や実習の受け入れ」といった採用強化策や、「障害者の雇用管理方法の明文化」「休暇を取得しやすくする制度」の影響度が高い。

採用時の見極めを強化しミスマッチを防ぐこと、ルールを明文化すること、症状の変化に応じて柔軟に休みをとれる環境を作ることの重要性がうかがえると同社は指摘する。

  • 雇用管理施策と定着・活躍度 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

「働くウェルビーイング」を高めている配慮では、精神障害者に関しては「就職時の配慮内容の丁寧なすり合わせ」「上司との定期的な面談」の影響度が高い。 障害特性の把握と適切な配慮が難しい精神障害では、配慮のすり合わせと調整、心理的サポートをもたらすこれらの配慮の有効性が高いと同社は考えている。

半面、「全従業員に向けた啓蒙」はマイナス要因となっており、障害者への過剰な気遣いや特別視を引き起こすことが一因だと同社は推察する。

  • 「働くウェルビーイング」を高める配慮 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

職責別に障害者雇用意欲を見たところ、障害者雇用担当者や全社の人事担当者が、障害者雇用に対してとても意欲的、または意欲的だと回答した企業は半数を超える一方で、障害者の配属先現場の管理職や一般社員が意欲的な企業は約2割に留まっている。 現場管理職の意欲の高さは、精神障害者の定着・活躍を強く予測しているといい、重要度が高いと同社は指摘する。

  • 職責別の雇用意欲 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

精神障害者に対する雇用管理施策と現場管理職の意欲との関連を見ると、「受け入れ先への配慮事項や障害特性の共有」「業務内容の切り出し・単純化・標準化」「上司と障害者との定期面談」「現場のトラブルへの対処方法・ルール明文化」といった現場支援が、管理職の意欲喚起に有効だという。

  • 精神障害者への雇用管理施策と現場管理職の意欲 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

精神障害者は他障害と比べて、周囲の同僚の行動が働くウェルビーイングと強く関連しているとのこと。同僚の態度・行動の影響を受けやすいため、同僚に対する教育や情報提供がより重要だと同社は推測する。

また、上司の「障害への否定的態度のなさ」「平等な対応」「肯定的なフィードバック」も、精神障害者において、はたらくWell-beingとの関連がやや強いという。

  • 障害者の「働くウェルビーイング」と上司・同僚の行動の関連度 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

精神障害者が受けている上司マネジメント行動の実施率と働くウェルビーイングとの関連度では、「肯定的なフィードバック」や「平等な対応」は、「障害への配慮」以上に関連度が強い。 また、「業務フォロー」や「公正な評価」も、比較的強く関連している。

  • 精神障害者への上司マネジメント行動の実施率と働くウェルビーイングとの関連 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

行政支援と精神障害者の定着・活躍の関連を見たところ、障害者トライアル雇用事業(短時間トライアル雇用を含む)が促進する傾向があるという。

トライアル雇用を通じて慣らし勤務を行いながら、企業・個人双方が適性を見極めることが、精神障害者の定着・活躍に有効だと同社は分析する。

  • 障害者トライアル雇用事業の影響度 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

外部専門機関との連携状況と精神障害者の定着・活躍に有効な雇用管理施策の実施状況では、体制を密に構築していると回答した企業では実施している傾向が強い。

外部専門機関と連携し、有効な施策やその実施方法について情報を集め、自社に雇用ノウハウを蓄積することが、精神障害者雇用の成功のために重要だと同社は指摘する。

  • 外部専門機関との連携度と施策実施状況の関連 出典: パーソル総合研究所(協力: パーソルダイバース)

調査結果から同社は、精神障害者の定着・活躍の促進には、1)採用時のマッチング強化、2)相談機会、3)現場支援、4)明文化、5)セルフケア支援の5つのポイントが重要だと指摘している。