物質・材料研究機構(NIMS)と東京理科大学(理科大)の両者は7月7日、高イオン伝導性を持つセラミックス薄膜「多孔質イットリア安定化ジルコニア膜」(YSZ)とダイヤモンドを用いて、従来の記録の8.5倍となる速度で動作する電気二重層トランジスタ(EDLT)を開発したことを共同で発表。同EDLTを物理リザバーコンピューティングに応用し、「非線形変換タスク」の評価で非常に高い精度が獲得されたことを報告した。

  • (左)開発した電気二重層トランジスタの模式図。(右)ニューロモルフィック動作の高速化。

    (左)開発した電気二重層トランジスタの模式図。(右)ニューロモルフィック動作の高速化。(出所:NIMSプレスリリースPDF)

同成果は、NIMS ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)の土屋敬志主幹研究員、同・高栁真研修生/理科大大学院 大学院生/JSPS特別研究員(現・博士)、同・西岡大貴研修生(理科大大学院 大学院生/JSPS特別研究員)、同・並木航NIMSポスドク研究員、同・寺部一弥MANA主任研究者、NIMS 機能性材料研究拠点の井村将隆主幹研究員、NIMS 技術開発・共用部門の小出康夫特命研究員、理科大の樋口透准教授らの研究チームによるもの。詳細は、材料科学および工学の全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Materials Today Advances」に掲載された。

AIはさまざまな分野ですでに活躍しているが、その課題として学習時の電力消費が膨大な点がある。しかし、ソフトウェア改良だけの改善には限界があるといい、現在では、神経の働きを模倣したハードウェアにより消費電力(計算量)を低減する「ニューロモルフィック(神経模擬)コンピューティング」についての研究が急ピッチで進められている。

EDLTは、電解質/半導体界面の電気二重層の充放電で電気抵抗が変化することで動作するため、神経の電気応答を模擬でき(ニューロモルフィック動作)、高性能な情報処理が可能であり、AI機能搭載機器への応用が期待されている。しかし、典型的な動作速度(時定数)が10ms程度~数百μsと遅く、より高速に動作するEDLTの開発が望まれていた。そこで研究チームは今回、YSZとダイヤモンドの界面での電気二重層効果を利用し、高速動作するEDLTを開発したという。

  • (a)ニューロモルフィックコンピューティングの模式図。(b)電気二重層トランジスタの模式図。(c)電気二重層トランジスタの低い動作速度。

    (a)ニューロモルフィックコンピューティングの模式図。(b)電気二重層トランジスタの模式図。(c)電気二重層トランジスタの低い動作速度。(出所:NIMSプレスリリースPDF)

電気二重層の充放電速度は、イオン伝導度が高まるほど、また電解質層が薄くなるほど、高速化することが理論的に示されている。そこで今回の研究では、パルスレーザー堆積法で成膜条件を精密に調整することで、多量のナノ細孔をイットリア安定化ジルコニア膜に導入することに成功したとする。

  • (a)今回の研究で観察された高速動作。(b)他の電気二重層トランジスタとの時定数の比較。

    (a)今回の研究で観察された高速動作。(b)他の電気二重層トランジスタとの時定数の比較。(出所:NIMSプレスリリースPDF)