横浜国立大学(横国大)、パナソニック エナジー、立命館大学の3者は7月7日、新しい「リチウム過剰型マンガン系酸フッ化物酸化物材料」を開発し、同材料がコバルト・ニッケルフリーでありながら、高エネルギー密度・長寿命のリチウムイオン電池(LIB)の正極材料となることを発見したと共同で発表した。
同成果は、横浜国立大学 工学研究院の藪内直明教授に加え、パナソニック エナジー 研究開発センター、立命館大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するエネルギーに関する全般を扱う学術誌「ACS Energy Letters」に掲載された。
電気自動車(EV)の普及拡大を実現するためには、LIBのさらなる高性能化と低コスト化が必須だ。現在、日本や欧米などで販売されている電気自動車に搭載されているLIBでは、少量のコバルトを含むニッケル系層状酸化物が正極材料として広く用いられている。それに対し、EVの販売台数が急増している中国のLIBには、エネルギー密度がニッケル系層状酸化物と比較して低いものの、低価格な鉄系材料が電池正極材料として広く採用されており、欧州でもその市場規模が拡大しているという。
LIBの需要拡大に伴い、リチウムやコバルトなどの希少金属の供給不足が懸念されているが、近年のEV需要増大によりニッケルの需要も急拡大しており、世界的なニッケル資源獲得競争が激化している。そのため、ニッケル系材料と同等以上の性能でありながら、鉄系材料と同程度のコストを実現する材料の開発が求められていた。
そうした経緯からこれまでは、フッ素を含まないリチウム過剰型マンガン系酸化物(Li2MnO3)系材料が、高エネルギー密度の電池材料として広く研究されてきた。しかし同材料は、充放電時に酸素が酸化されて酸素分子として脱離するため、充放電時に電圧が低下するという課題があった。それを受けて研究チームは今回、電解液としてリチウム塩濃度が高い電解液を利用することで、その課題の解決を試みたという。
そして鉄と同様に、資源埋蔵量が豊富で安価なマンガンを利用することで、コバルト・ニッケルフリーの構成でありながら、従来のニッケル系層状材料と同程度のエネルギー密度を有する、岩塩型構造のリチウム過剰マンガン系酸フッ化物正極材料「Li2MnO1.5F1.5」の開発に成功したとする。
一般に、このようなマンガン系酸フッ化物材料は電解液に溶出するため、サイクル寿命を向上させることが求められていた。そうした中、今回の研究では、電解液としてリチウム塩濃度が高い電解液を利用することで、電池材料の電解液への溶解を抑制できることが発見された。高濃度のフッ素が含有されているため、マンガン酸化数の低減効果により酸素が酸化されないことから、高エネルギー密度でありながら電圧低下も生じないことが確認され、高エネルギー密度と優れた寿命特性の両立が実現された。
また、電池材料としての特性は鉄系材料を大きく超えるものであり、マンガンの多電子酸化還元反応により優れた電池特性を実現していることが、実験によって明らかにされたとする。
今回の研究ではコバルト・ニッケルフリーの材料を用いても高エネルギー密度化と低コスト化の両立が可能であり、サイクル寿命に優れた実用的な電池材料として使える可能性が初めて立証された。研究チームは、今後の研究の進展により、鉄系材料と同程度のコストで、より高性能な実用的マンガン系材料を用いたLIBの開発が期待できるとしている。