東北大学は7月6日、単純な強磁性/非磁性二層構造である単結晶コバルト(Co)/白金(Pt)構造が、外部磁場を用いなくても電流注入で磁化反転が可能であること、つまり、光で情報の記録が可能であるCo/Pt構造が電気でも効率的に情報を記録できることを示し、光ファイバからでも電気配線からでもデータを蓄積できる光電融合が可能な不揮発性磁気メモリ材料の開発に成功したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の好田誠教授(量子科学技術研究開発機構 量子機能創製研究センター グループリーダー兼任)、同・新田淳作名誉教授、同・柳淀春大学院生(研究当時)を中心に、韓国科学技術院、米・マサチューセッツ工科大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。
第6世代移動通信により膨大なセンサ・機器がネットに同時接続される情報通信社会では、通信されるデータ量の爆発的な増加が予想されるため、光の大容量・高速化と、電子の低消費電力化を同時活用できる情報処理・記録技術が希求されている。電気で動く半導体と光配線の間には、光情報を一時的に記録し半導体集積回路に伝送、そこで処理された情報を再度記録する必要があるため、光でも電気でも情報を記録できる材料が必要とされていた。
強磁性体を記録媒体として用いる不揮発性磁気メモリでは、磁化方向の上向きと下向きを反転させることで情報の記録を行う。光の照射により磁化を反転させられる材料としてCo/Pt構造が知られており、光電融合の不揮発性磁気メモリへの応用が研究されている。しかし、Co/Pt構造において電気的に磁化反転を行うには、外部磁場を印加する必要があり、光と電気の高度融合を実現する上でボトルネックとなっていたという。そこで研究チームは今回、単結晶Co/Pt構造についてより詳細に調べたとする。
その結果、単結晶Co/Pt構造では、磁化容易軸方向が薄膜全体では膜面に対して垂直方向に揃っているが、局所的に面内方向に傾いた磁化を持つ領域が存在することが明らかにされた。そして、この磁化の傾きと磁化のねじれを誘起する「界面ジャロシンスキー守谷相互作用」が組み合わさることで、外部磁場不要の電流注入磁化反転を可能にしたとする。なお界面ジャロシンスキー守谷相互作用とは、磁性体中の隣接する磁気モーメント間の相互作用のことで、隣接する磁気モーメントの方向をずらし、磁気モーメントの空間的な構造にねじれを与えようとすることから、磁化を特定の方向のみに回転させることが可能となる。
これにより、強磁性体/非磁性体二層構造のみというシンプルな構造で磁化反転が実現できるため、デバイス設計・作製・プロセスが飛躍的に単純化できる可能性があるという。さらにCo/Pt構造は、光照射により磁化反転ができる材料として知られていることから、光でも電気でも情報を記録できる材料として光電融合インタフェースに利用できる不揮発性磁気メモリとして期待できるとする。
今回、電気でも効率的に情報を記録できることが示されたことで、高速・低消費電力で電源を切ってもデータが消えない不揮発性磁気メモリを活用した光電融合インタフェースの実現可能性が高まった。研究チームは、特に、光信号と電気信号を同時活用する高速・大容量サーバにおけるデータバッファメモリや自動運転など、大量の情報をリアルタイムで処理するエッジデバイスの一次データ処理メモリとしての期待が高まるとしている。