「チャットGPT」などの生成AI(人工知能)をめぐる小中高校向けの暫定的な指針を、文部科学省がまとめた。学びに生かす視点、将来使いこなす力を育てる姿勢が重要だと前向きに評価する一方、サービスが発展途上で偽情報などの懸念が指摘され、発達段階を十分考慮する必要があると注意喚起。活用の適否を判断する例を踏み込んで示した。小学生の利用には慎重な姿勢を説いている。
学びに向かう力、人間性を養うことがさらに重要に
生成AIが急速に普及する中、教育現場でも利点や課題を指摘する声があり、一定の考えを国が示す必要があるとして、文章を生成する「対話型生成AI」を中心に指針をまとめた。政府の議論やG7教育大臣会合を踏まえたほか識者、中央教育審議会委員への意見聴取を経て、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」として文科省初等中等教育局が作成。4日付で都道府県教育長などに通知した。
基本的な考え方として、学習指導要領が情報活用能力を学習の基盤となる資質、能力と位置づけていることを指摘。生成AIの仕組みの理解や、学びに生かす視点、将来使いこなす力を育てる姿勢が重要だと前向きに評価した。一方、発展途上で個人情報の流出、著作権侵害、偽情報、批判的思考力や創造性、学習意欲への悪影響などの懸念も指摘されており、子供の発達段階を十分考慮する必要があると明記した。小学生の利用には「慎重な対応が必要」とした。
教育での利用にあたり、利用規約の順守に加え、性質やメリット、デメリット、AIに自我や人格がないこと、全てを委ねず自分の判断や考えが大切だと理解させること、発達段階や子供の実態を踏まえた見極めが重要とした。教師に一定のAIリテラシーが必要という。
手軽に答えが得られるデジタル時代にこそ学びの意義の理解が重要となることや、知識や文章を読み解く力、批判的に考察する力、問題意識を持つこと、それらの前提として学びに向かう力、人間性を養うことがさらに重要だと提起した。
その上で、現時点では有効な場面で限定的に利用し始めることが適切だと判断。懸念やリスクに十分な対策を取れる学校で試行的に取り組み、成果や課題を検証する必要があるとした。また校外で使われる可能性があるため、全ての学校で、情報の真偽の確認(ファクトチェック)の習慣付けなどの教育を充実させる必要があるという。
議論を深めるため、英語学習…活用例示す
不適切な活用例として(1)生成AIの性質を十分学習しないまま自由に使わせること、(2)コンクールやレポート、小論文などで生成物を自分のものとして提出すること、(3)詩や俳句、音楽、美術など感性や独創性を発揮させたい場面で最初から安易に使わせること、(4)テーマに基づき調べる場面で、教科書などの質の担保された教材を用いる前に安易に使わせること、(5)教師の代わりに安易に生成AIから生徒に回答させること、(6)定期考査や小テストなどで使わせること、(7)教師がAIのみを使い学習評価をすること、(8)教師が人間的な触れ合いの中で指導せず、安易に生成AIに相談させること――を挙げた。
一方、活用例として(1)誤りを含む生成物を使い、生成AIの性質や限界に気付かせること、(2)生成AIをめぐる社会的論議について考えるための素材とすること、(3)生徒で議論やまとめをし、足りない視点を見つけ議論を深めるために使うこと、(4)英会話の相手として使うことや、英語表現の改善、興味関心に応じた単語、例文リストの作成に活用させること、(5)活用法を学ぶため、自作の文章を生成AIに修正させたものをたたき台とし、自分で推敲し修正した過程や結果を、ワープロの校閲機能を使い提出させること、(6)発展学習で高度なプログラミングをさせること、(7)生成AIの問題発見、課題解決能力をテストすること――を挙げた。
夏休み中など「保護者の理解が必要」
夏休みなど長期休業中の文章課題などについても留意事項を例示し、「保護者にも、不適切な使用がないよう周知し理解を得ることが必要」と指摘。課題研究などで使った際には、生成AIサービスの名称、入力した指示文(プロンプト)や生成物、日付などを明記させることが考えられる」と提案している。
文科省は今回の指針について、一律に禁止や義務づけを行う性質のものではなく、また今後も機動的に改訂するとしている。生成AIの普及と発展を踏まえた教育のあり方などについて、中教審などでさらに検討するという。
生成AIは言葉で入力した質問や課題に、AIが自然な文章で答えたり、画像を生成したりするインターネット上のサービス。ネット上を中心に膨大なデータを学習し、高度な情報処理技術により実現している。無料のものも多い。急速に普及しているが草創期にあり、生成物に誤りが含まれるなど難点も指摘される。対話型は米オープンAI社のチャットGPTが代表例で、他にマイクロソフト社の「Bing(ビング)チャット」、グーグル社の「Bard(バード)」などがある。チャットGPTが「13歳以上、18歳未満は保護者が同意」とするなど利用に年齢制限がある。海外では公教育で使用を禁じる動きもあるという。
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