海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京工業大学(東工大)、東北大学、国立天文台(NAOJ)の4者は7月6日、NAOJが運用する総コア数2160で構成された「計算サーバ」を用い、惑星の材料物質である原始惑星系円盤内の固体微粒子の塊について、さまざまな大きさでの衝突挙動の数値シミュレーションを実施した結果、塊が大きい場合に2つの塊が衝突合体する確率が低下することを明らかにし、固体微粒子が衝突合体を繰り返すのみで微惑星のようなサイズにまで成長するのは難しいことを確認したと共同で発表した。
同成果は、JAMSTEC 付加価値情報創生部門 数理科学・先端技術研究開発センター 計算科学・工学グループの荒川創太Young Research Fellowらの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
惑星形成は、原始惑星系円盤の中でμmサイズの固体微粒子同士が衝突合体して成長することから始まる。しかし、微粒子同士の塊がある程度の大きさまで成長してくると、衝突しても跳ね返りやすくなるため、自己重力が働くようなサイズに成長するまでの条件が長年謎だった。
また、数値シミュレーションと室内実験の結果に大きな乖離があり、特に、衝突時の跳ね返り現象を引き起こす塊の密度の条件が大きく異なっていたという。たとえば、シミュレーションでは塊の内部の空隙の割合が50%程度以下という高密度の場合にのみ跳ね返り現象が頻繁に見られたが、室内実験では空隙の割合が90%程度という低密度の場合でも高い確率で跳ね返ることが報告されていたとする。
現在、微惑星の形成モデルとしては2つの仮説がある。もし跳ね返りがないのであれば、衝突合体で微惑星が形成される可能性があるのに対し、跳ね返りがあるのであれば、衝突合体以外の成長メカニズムが必要だとされる。そこで考えられたのが、微粒子の塊が原始惑星系円盤内で局所的に濃集し、その後、自己重力によって集積し形成されるという仮説だ。
塊の衝突挙動を理解することは、2つの仮説のどちらが微惑星形成シナリオとして妥当かを判断する鍵となることから、今回の研究では、「離散要素法」を用いた衝突シミュレーションを実施し、構成粒子数が約1万~約14万のさまざまな大きさの塊について、衝突時の付着確率を調査したという。
今回は、塊は半径0.1μmの氷の微粒子で構成されており、空隙の割合が60%の塊同士を衝突させる条件が採用された。その結果、微粒子の塊は空隙の割合が同じならば半径が大きい方がより付着確率が低いことが判明。また、塊の半径が微粒子半径の50倍以下の場合、塊同士が付着する確率は約90%に上ったという。一方、それよりも塊が大きい場合は跳ね返りやすくなり、微粒子半径の70倍の大きさを持つ塊では付着確率は約50%まで下がったとする。
研究チームはこの結果について、過去のシミュレーションと室内実験の乖離についても定性的な説明を与えるものだとする。過去のシミュレーションでは、構成粒子数が数万程度で、塊の半径が微粒子の半径の数十倍という比較的小さな塊が扱われてきた一方、室内実験では、粒子数が数億以上で微粒子半径の数百倍から数千倍の半径を持つ塊が用いられてきた。つまり、従来のシミュレーションと室内実験とでは、用いられてきた塊の構成粒子数に大きな差があり、これが両者の衝突挙動の違いをもたらしていたと考えられるという。
今回の結果からは、原始惑星系円盤での固体微粒子の衝突合体成長は、塊がある程度大きくなった段階で付着確率が低下し、抑制されることが示唆される。つまり微粒子の衝突合体成長のみで微惑星を形成することは困難だという。このことから微惑星の形成には、原始惑星系円盤内において微粒子の塊が局所的に濃集するなど、別のプロセスの助けを借りる必要がある可能性があるとする。実際、アルマ望遠鏡による原始惑星系円盤の観測では、固体微粒子の塊は100μm程度で成長が止まっている可能性が指摘されており、今回の成果はこの観測結果に説明を与える可能性があるとしている。
なお、今回の研究では塊内部の空隙の割合が60%で固定されていたが、それとは異なる密度の塊については、跳ね返りが起こる条件はまだ解明されておらず、現実の塊内部の空隙の割合はもう少し高く低密度である可能性があるという。仮にそのような低密度でも十分大きい場合には、今回の研究結果と同様に跳ね返りが生じると考えられるものの、定量的な理解は得られていないとした。
今後も研究チームでは、現時点で調査できていない室内実験と同規模の非常に大きな塊を用いた衝突シミュレーションを実施することで、跳ね返り現象を支配する物理の解明を目指すとしている。