Infineon Technologiesの日本法人であるインフィニオン テクノロジーズ ジャパンは7月6日、プライベートカンファレンス「Infineon MCU Partner & Solution Day 2023」を開催。自社ならびにパートナー企業各社のIoTソリューションの現在を紹介したほか、自社の今後のIoT向けマイコン製品の方向性を提示した。

オープニングの挨拶に登壇したインフィニオン テクノロジーズ ジャパンのバイスプレジデント兼CSS(コネクテッド セキュア システムズ)事業本部 本部長の針田靖久氏は、「脱炭素とデジタル化はInfineonの2大戦略。その中でもデジタル化の肝となるのがIoTであり、Cypressの買収以降、IoT製品群にかなり積極的に研究開発投資を行ってきた」と説明。その中心の1つがマイコン製品だとする。

  • 針田靖久氏

    「Infineon MCU Partner & Solution Day 2023」の挨拶に登壇したインフィニオン テクノロジーズ ジャパンのバイスプレジデント兼CSS事業本部 本部長の針田靖久氏

パートナーと協力し、ソリューションの提案で市場開拓を目指す

マイコン戦略の説明を行ったインフィニオン テクノロジーズ ジャパン コネクテッド セキュア システムズ事業本部 IoTインダストリアル部 部長の細田秀樹氏は「InfineonとCypress、それぞれがCypressの買収前から長期的な視点をもって技術試算に対する投資を行ってきた」と、IoT向けマイコン製品に対しても研究開発投資を行ってきたことを強調するほか、「欧州(Infineon)、米国(Cypress)、日本(Cypressが買収した富士通のマイコン部隊)の3つの地域の企業文化のいいところをすべて融合したのが新生Infineonで、世界的に見ても唯一無二の存在。ドイツの質実剛健さ、米国の先端技術に対するフットワークの軽さ、日本の高品質などの文化を融合させた状態が現在で、加えてユーザー優先の体制が構築されている」と、現在の同社のIoT向けマイコンチームの強さの源泉を説明する。

  • 細田秀樹氏

    インフィニオンの産業および民生向けマイコン戦略の説明を行った細田秀樹氏

現在、IoT向けマイコン市場の顧客ニーズとしては、ハードウェアのみならず、ソフトウェアも含めたソリューションベースでの提案が求められており、それに応じることを目指してマイコン製品のポートフォリオの拡充ならびに開発環境の充実などが図られてきた。開発環境は、それぞれのマイコンに別個存在したのが「ModusToolbox」と呼ばれるツールに一本化が進みつつあるという。

「マイコン以外にもIoTビジネスをサポートしていくポートフォリオを取り揃え、他事業部の製品(パワー半導体など)を含めた展開やAI/機械学習(ML)の活用なども加えた、将来につながる製品づくりに貢献できる体制を3年かけて整えてきた」と、新生Infineonの体制づくりを強力に推進してきたとするほか、「Infineonだけで顧客のサポートはしきれない。グローバルベースでビジネスパートナーとの連携整備・強化を図っており、日本でもその動きは重要視している」と、同社とともにソリューションまで含めて顧客に価値を提案・提供してくれるパートナーの重要性を強調。また、「Infineonとして産業分野や自動車分野に対する技術や知識を有して、深いところまで自社で対応できる体制が整っているが、パートナーに任せる部分は任せる。ただ、パートナーに任せるにしても、Infineonもそこに加わりサポートしていくことで、ユーザー企業がきっちりとInfineonの製品を活用できる体制ができる」と、Infineonとパートナーとの関係性について説明する。

次世代PSoCはSoCのような高機能・多機能なものに

Infineonは現在、産業分野寄りに従来のInfineonのマイコンである「XMCシリーズ」と旧富士通のマイコンである「FMシリーズ」、コンシューマ寄りに旧Cypress製品である「PSoCシリーズ」をそれぞれ提供している。

この3シリーズ、2024年の早い段階から順次、次世代品をリリースする予定だという。具体的なそれぞれの製品リリースの時期は公表されていないが、あくまで筆者の推測であるが、年初に毎年米国で開催されている「CES」にて、この数年、スマートホーム向け半導体などを複数の半導体メーカーが発表するといった動きを見せており、それに2024年も沿った形となるのであれば、おそらくPSoCの次世代品がCESの開催に併せたタイミングでアナウンスされるものと思われる。

その次世代PSoCについて細田氏は「SoCみたいな製品となる」と概要を説明。ロードマップとしては、「PSoC Next xxx」と「PSoC Next Connected xxx」の2つのシリーズラインナップが予定されているが、それらの特徴として3つのポイントを挙げている。1つ目はHMIの各要素となる音声、タッチ、画像認識、認証といった機能をマルチに処理することを可能とする点。2つ目は身体の角度や歩幅などの常態認知を可能とする点。3つ目は、AI/ML機能の搭載による自律制御の実現で、これにより予防保全なども可能になるとする。また、AI/ML機能による付加価値として、現状、多くの音声認識機器で活用されているるウェイクワードを不要とし、自然な会話のように言語を認識できる機能の搭載などもマイコンレベルならびにソリューションレベルで実現することも考えているという。

  • 20203年時点のインフィニオンのマイコンポートフォリオ

    20203年時点のインフィニオンのマイコンポートフォリオ。次世代品は2024年の早い段階から順次リリースされていく予定だという。PSoCは2つのシリーズ展開が予定されている (出所:Infineon MCU Partner & Solution Day 2023配布資料)

搭載されるコアとしてはArm Cortex-Mx世代としており、現状、PSoCには8ビット対応のPSoC 1、PSoC 3、Cortex-M0/M0+のPSoC 4、Cortex-M3のPSoC 5LP、Cortex-M4とM0+のPSoC 6があるが、それらのどれかの系譜となるか、新たなナンバリングが振られるのか、といったことについてはまだ非公開だとしている。

  • 現行のPSoCシリーズのポートフォリオ

    現行のPSoCシリーズのポートフォリオ (出所:Infineon MCU Partner & Solution Day 2023配布資料)

FMシリーズはXMCシリーズに統合へ

一方のXMCシリーズとFMシリーズの次世代品としては、「XMC Next xxx」と「XMC Next Evolution xxx」の2シリーズを予定しているとするが、そのラインナップとしてエントリ、ミッドレンジ、ハイエンド、そして「プログラマブル・パワー・コントロール・アクセラレータ」と称するスーパーハイエンドの4カテゴリに分れる形での提供を予定しているとのことで、FMシリーズは「XMC Next xxx」の方に統合されていく予定だという。

  • 20203年時点のインフィニオンのマイコンポートフォリオ

    20203年時点のインフィニオンのマイコンポートフォリオ。FMシリーズとXMCシリーズは2つのXMCシリーズに集約されていくという (出所:Infineon MCU Partner & Solution Day 2023配布資料)

また、「XMC Next Evolution xxx」はCortex-Mのマルチコア、「XMC Next xxx」はCortex-Mのシングルコアという切り分け方で、それ以外の産業グレード品質、ECCメモリ対応などの部分は共通となる見通し。細田氏は「詳細はまだ言えないが、ハイエンドに振っていくという方向性」としているが、一方で既存のXMC1000シリーズと比べては圧倒的に各種の部分で強化されるとするものの、競合他社のハイエンド製品と比べると、アナログ、価格、タイマー性能などでは上回るものの、考え方もあるとしながらもCPU性能は若干低めとなる見通しが示されており、Arm Heliumテクノロジーを採用したCortex-M55あたりが採用される可能性がある。

  • 既存のXMC7000シリーズとしても新機能の追加が予定されている

    既存のXMC7000シリーズとしても新機能の追加が予定されている (出所:Infineon MCU Partner & Solution Day 2023配布資料)

次世代XMCシリーズのアプリケーションとしては電力変換やモータ制御などを中心に考えているとのことで、近年のトレンドとなっているSiCやGaNといったワイドバンドギャップ(WBG)半導体の高いスイッチング周波数などへの対応も考慮した性能を実現するとしている。

  • Industrial IoT分野のフォーカスアプリケーション
  • Industrial IoT分野のフォーカスアプリケーション
  • Industrial IoT分野のフォーカスアプリケーション。将来ニーズに対応するべく、Cypress側の技術もXMCシリーズに盛り込んでいくという (出所:Infineon MCU Partner & Solution Day 2023配布資料)

さらに、エッジAI/MLに対しても注力していくとしており、開発を容易化するソリューションの強化なども推進していくともしており、AI/ML分野以外も含め、半導体メーカーではありながら、システムベースでの提案に注力していくとしており、顧客がIoTを活用したビジネスに挑戦していくその時、信頼できるパートナーになることを目指すとしている。