生きたまま少量の採血をすることで、体内の細胞の増殖がよく分かる実験用の遺伝子改変マウスを開発したと、東北大学などの研究グループが発表した。このマウスを使い、肝臓や膵臓(すいぞう)の細胞の増殖が分かった。実験動物の使用を抑えつつ、糖尿病などさまざまな病気の治療法の開発につながる期待があるという。
体内の細胞増殖を時間を追って調べるには従来、経過時間ごとに臓器を摘出し、染色して顕微鏡などで調べてきたが、手間がかかり、実験動物を多く必要とするなどの難点があった。そこで研究グループは、少量の採血で済み、生きたまま細胞増殖が分かる遺伝子改変マウスを開発した。特定の細胞が増殖すると、発光酵素の「ルシフェラーゼ」を作って血中に分泌するようにした。
ルシフェラーゼは20分で半減する。採血し、発光量を基にルシフェラーゼの量を調べれば、細胞の増殖がリアルタイムに分かる。採血は50マイクロリットルで、1滴といえる少量なので、同じマウスを使って何度も調べられる。調べたい細胞の種類により遺伝子改変の仕組みを変えれば、さまざまな細胞の増殖を観察できる。
この方法の有効性を検証するため、まずマウスの肝臓の細胞の増殖を調べた。肝臓を部分的に切除した後、時間を追って調べると、増殖していくのをはっきりと検出できた。
膵臓でインスリンを作る「ベータ細胞」の増殖が分かるかも調べた。インスリンは血糖値を下げるもの。ベータ細胞がうまく働かないと血糖値が上がり、糖尿病の原因となる。研究グループは過去の研究で、脳からの神経信号によりベータ細胞が増殖することを見つけている。そこで実際に神経信号で刺激を与えると、ベータ細胞が増殖した。妊娠したり肥満になったりした時や、若年期にはベータ細胞が増殖することが知られており、これらの変化も検出できた。
また、ベータ細胞を増殖させる物質をベータ細胞に与えると、ルシフェラーゼが増加して増殖を高感度に検出した。このことから、ベータ細胞を増やす物質を探すことにも役立つ可能性が示された。
糖尿病ではインスリンを注射で補うなどの治療が行われている。この遺伝子改変マウスを使うことで、ベータ細胞のようなインスリンを作る細胞を増やすなど、新たな治療法の開発につながる可能性があるという。そのほか、細胞を増やすことによるさまざまな病気の治療薬、がん細胞の増殖を抑える薬の開発につながる期待もある。
研究グループの東北大学大学院医学系研究科の今井淳太准教授(内分泌代謝学)は会見で「ベータ細胞は数が極めて少なく、しかも増殖しにくい。それでもこの方法で増殖を検出できたことから、体内のさまざまな細胞を見ることに応用できそうだ。多彩な分野への応用を非常に期待している」と述べている。
研究グループは東北大学と東北医科薬科大学で構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に6月14日に掲載された。研究は科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業、文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業の支援を受けた。
関連記事 |