横浜国立大学(横国大)と千葉大学の両者は7月5日、高山や氷河に出現する菌類「ツボカビ」は、雪氷藻類に寄生するツボカビであるということを明らかにしたと発表した。
同成果は、横国大大学院 環境情報学府の中西博亮大学院生、同・大学院 環境情報研究院の鏡味麻衣子教授、千葉大大学院 理学研究院の竹内望教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、微生物に関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Microbiology」に掲載された。
ツボカビは、水中を泳ぐことのできる菌類であり、カエルに寄生するツボカビはカエルを激減させ絶滅を招くなど「ツボカビ=怖い病原菌」という印象が持たれている。しかし、氷河、積雪など水域生態系の観点からすると、ツボカビは必ずしも悪者ではなく、生態的に与えられた役割があるという。
そうした中、近年進展してきた環境DNA解析技術により、ツボカビの中に寒冷環境下でも繁殖できる種が存在することが明らかになってきており、北極圏の海洋や高山の積雪下または氷河周辺の土壌、さらに積雪や氷河そのものの上にも存在することが報告されている。しかし、それらが何らかの生物に寄生する種類なのか、あるいは単に有機物を分解する腐生性なのかがわかっていなかったとした。
そうした中今回の研究により、寒冷環境で検出されるツボカビは、積雪や氷河上で繁殖する藻類(雪氷藻類)に寄生する種類であることが判明。ツボカビが雪氷藻類に寄生している様子が捉えられ、その1胞子からDNAを抽出することに成功したとともに、系統関係を確かめることもできたとする。さらに、これらのツボカビは、世界中の高山に存在しうること、雪氷藻類に寄生することに特化したグループである可能性が示唆されたとした。
近年、氷河の後退や積雪の融解が進んでおり、その主要因は地球温暖化の影響と考えられているが、それ以外にも氷河上で繁殖する藻類が表面を着色し、日射の吸収を増やすことで融解を促進する効果も大きいことが明らかにされてきている。そうした藻類に感染するツボカビは、藻類を死に追いやることでこうした融解促進を軽減する力を持っていることになるという。
今回の研究成果は、雪氷圏の将来を左右しうる微生物の相互作用を新たに見出すとともに、21世紀中に消滅すると予測される氷河生態系や積雪生態系を理解する一助になることが考えられるとした。