名古屋工業大学(名工大)は7月5日、異なる金属酸化物を有する市販釉薬を用いて研究したところ、茶葉から抽出した緑茶に多く含まれる天然フラボノイドの「カテキン」が陶磁器の釉薬表面の触媒作用により選択的に酸化され、紅茶やウーロン茶などの発酵茶に多く含まれる抗酸化性のポリフェノール「テアフラビン」とその酸化物、およびポリフェノールの重合体色素「テアルビジン」などが生成されることを発見したと発表した。

同成果は、名工大大学院 工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域) 先進セラミックス研究センターの白井孝准教授、同・辛韵子特任助教、同・加藤邦彦特任助教、同・紫藤壮大氏(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

一般的な陶器や磁器などの湯呑は、粘土などを成形した器の表面にガラス質の材料である「釉薬(ゆうやく)」でコーティング(釉掛け)されて作られる。釉薬は、陶磁器表面の小孔を塞ぎ耐水性を付与するだけでなく、異なる金属酸化物種の添加および焼成により、構造制御された金属酸化物相が結晶化し、多種多様な色彩で装飾する意匠性を楽しむことも可能だ。

今回の研究では、酸化銅、酸化コバルト、酸化鉄、酸化チタンなどの異なる金属酸化物が配合された市販釉薬(オリベ・ナマコ・イラボ・トウメイ)を用いて陶磁器ピースに釉掛けし、1250℃の焼成により釉薬相サンプルを作製。そして、茶葉から抽出された緑茶とそれぞれの釉薬相サンプルを、混合直後と80℃で6時間保持した後の緑茶の色を比較、成分分析などを行うとした。

結果、6時間保持された緑茶は色が濃い茶色へと変化し、釉薬の有無および種類によって濃度が変化することが観察されたという。このような濃い茶色は、カテキン分子の酸化重合反応により生成されたオキシテオタンニン色素が示された色として知られており、オキシテオタンニンは赤味がかったオレンジ色を持つテアフラビンと、茶色がかったテアルビジンと2種類に分類される。

  • (a)焼成後の釉薬相サンプル。(b・上)茶葉から抽出した緑茶とそれぞれの釉薬との混合直後の画像。(b・下)80℃で6時間保持した緑茶の画像

    (a)焼成後の釉薬相サンプル。(b・上)茶葉から抽出した緑茶とそれぞれの釉薬との混合直後の画像。(b・下)80℃で6時間保持した緑茶の画像。(出所:名工大Webサイト)

次に、これら保持前後の緑茶中のカテキン成分の変化を調査するため、高速液体クロマトグラフィーを用いて、定性定量分析が行われた。茶葉から抽出された緑茶原液からは、計7種類のカテキン成分が主に検出されたとする。

すると、比較試料として用意された緑茶のみのサンプル(釉薬添加無)において、80℃6時間保持後には新たな成分としてテアフラビンが多く生成されることが観察された。これは、時間経過後の緑茶が同重合体の赤味がかったオレンジ色が示されたことと一致していることになる。

  • 抽出直後の緑茶原液(Pristine)と釉薬添加有無および6時間反応後の緑茶試料のHPLC結果

    抽出直後の緑茶原液(Pristine)と釉薬添加有無および6時間反応後の緑茶試料のHPLC結果(出所:名工大Webサイト)

一方、釉薬と混合された試料はカテキンの量は顕著に減少し、テアフラビンの生成量は釉薬添加無しの試料より低く検出されたとのこと。これは釉薬の添加効果により、生成されたテアフラビンがさらに酸化し、別の物質になったことが示されているという。

さらに、茶葉から抽出した緑茶原液中の各カテキンの濃度を100%とした時の、釉薬の有無および種類の違いによる各カテキンの濃度変化を調査し釉薬添加無しの試料と比較すると、銅・鉄・コバルト系酸化物を含むイラボ・オリベ・ナマコ釉薬は、上述の検出された7種類中のうちの4種類のカテキン(Epigallocatechin/Epicatechin/Epigallocatechin gallate/Epicatechin gallate(ECg))を、選択的に酸化させることが判明したとする。

  • HPLCから求めた、釉薬の有無および種類による4種類のカテキンの濃度変化と釉薬の有無および種類による各カテキンの濃度変化の計算結果

    (a)HPLCから求めた、釉薬の有無および種類による4種類のカテキン(EGC/EC/EGCg/ECg)の濃度変化。(b)茶葉から抽出した緑茶中の各カテキンの濃度を100%とした、釉薬の有無および種類による各カテキンの濃度変化の計算結果(出所:名工大Webサイト)

また、3種類の釉薬の中ではイラボを用いた場合に最もカテキンの酸化が見られたとする一方、Ti系酸化物を主成分としたトウメイ釉薬は、EGCgのみを選択的に酸化させることが観察されたという。以上の結果から、カテキン分子が釉薬表面で酸化、重合反応によりテアルビジンが生成されることが推測されたとした。

推測される釉薬表面とカテキンの反応メカニズムとしては、釉薬中に含まれる金属酸化物がルイス酸として機能し、カテキン分子から脱離したプロトンや電子と反応、そしてカテキン分子から中間生成物のカテキンラジカルもしくはオルトキノンが形成され、形成された中間生成物がさらに水素・一酸化炭素・CO2の脱離により重合反応が促進し、テアフラビンとその酸化物およびテアルビジンなどの重合体が生成されることが推測されるという。

  • 今回の研究より推測した釉薬とカテキンの反応メカニズム

    今回の研究より推測した釉薬とカテキンの反応メカニズム(出所:名工大Webサイト)

研究チームは今回の研究成果を応用することで、今後、人類の健康改善に寄与するカテキンのin-situ合成や風味の変化が楽しめる茶器の開発など、古来より世界中で楽しまれてきたお茶と陶磁器の新たな機能創出が期待できるとしている。